■野良猫 ugly cat■
尻尾のない、醜い野良猫が一匹、通りを悠然と横切る頃。
その通りの表では、喧々囂々の言い争いが起こっていた。
「しつこい!来るなと言ったら来るな!」
「ニーさんもまんざらじゃないくせにー」
「まんざらだ!こりごりだ!もー知らない、お前の事なんぞ知るもんか!」
短い黒髪を前髪は下ろし後ろは特徴的に立てたヘアスタイルの男が、もう一人のラフな恰好に癖のある赤みがかった髪をルーズに上げた男に服の裾を掴まれながら、野良猫に見られていることも知らず激昂している。
「俺は本当に心配したんだからな、また急病かと思って!」
黒髪の男――賢木が、自宅マンション近くの通りにたどり着くと、一人の男がうずくまっていた。
よく見るとそれは見知った顔――先日学園祭で会ったばかりの葉だった。
『どうした!?』
学園祭で調子を崩したばかりのはずの葉に念のために訊くと、
『……胸が痛くて、動けない』
などと言って胸を押さえてうずくまっていたから、その場で介抱しようとあわてて胸に手を当ててサイコメトリしたとたん――よこしまな意識が一気に流れてきた。そしてその中にはこれが演技だという情報も含まれていたので。
『帰る!』
と怒髪天を衝く勢いでその場を離れようとしたところを葉に掴まれた、という訳だった。
「たまには玄関から一緒に入れてよ」
「冗談じゃない!」
どうせまた好き勝手して帰っていくに違いないのだ。何よりもそのことに慣れつつある自分に腹が立つ。
ニャア、とネコがひと声啼いたのも気にせずに葉は賢木にしがみつくようにして歩みを止めている。
「俺とニーさんの仲じゃない」
「うるさい!」
大体こいつはいつも図々しくて、なのに心臓発作を起こすと聞かされていた薬なんぞを『任務だから』でほいほい飲めるような男だ。命を救うのが一番の医者にとって一番有り難くない類の人間と言っても過言ではない。
賢木は一つ溜息を落とすと、ワントーン落とした調子で呟く。
「大体俺はお前といると心配ばかりだ。ほら見ろ、まわりも変な目で見だしただろうが」
ネコの声に誘われたかのように、周囲にいる人々が何事かと興味の目線で賢木と葉を見つめている。
「心配してくれたんだ?へー。ますます嬉しいし、それに俺は周りの目なんて気にならないけど?」
「気にしろ!……ったく」
あっけらかんとした葉に、騙されたとはいえ心配した自分が馬鹿らしくて、なんだか次第に力が抜けてきた。
「わかった」
「ん?」
「部屋に上げるだけだぞ。だからもう騒ぐな。口もきくな。わかったな!?」
賢木の言葉に、葉が口の端をつり上げて笑う。
「了解」
どうせこれも嘘だ。さっきサイコメトリした時の思考にはこの後のプランがぎっしりとピンク色のインクで描かれていたのだから。
けれど今はこの周囲の視線から逃れたい。
「じゃあ行くぞ」
「ラジャー」
そして葉は満面の笑みを浮かべ、賢木はもう一つ溜息をついた。それに呼応するように、いつからそこに居たのか、野良猫がニャア、とひとつ鳴いた。
<終>
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お題:題材[醜い,ねこ,帰る,動けない]一次創作でやってみよう!
一次創作はむりなのでねこ中心でネタにしてみましたー。この二人なんとなく勝手に関係が進みつつあるようなないような不思議な感じです。まだどっちが受けとか攻めとかも決まってなかったはずなのに・・・。
いつもありがとうございますです。