葉賢木葉。喧嘩ップル目指して失敗。
■雨上がりの夜更け rainy night■
夜半には雨も上がり、賢木はふと思い立ってマンションの自分の部屋までを階段で登っていく。今日は少し飲み過ぎた。いくらかでも身体を動かしたかったのと、酔った勢いだった。
自然、5階過ぎてから足に疲労を感じたが、なんとか自室のある階にまで上り、非常扉を開いて廊下へと出る。
自室のドアへと向かう、そこに一つの人影があった。
「お前……」
「やぁニーさん、今日もお楽しみ?」
「バベルの面子との飲みだよ。つーかお前に関係ねー」
そして葉が片手に傘を持っているのに気付く。雨は大分昔に止んだはずだ。その時間からここで待っていたということなのだろうか。
「――まさかな。こいつに限ってそれはない」
「何がないって?」
思わず口に出してしまい、葉に咎められる。
「何でもない。大体なんなんだよお前、こんな所で」
「そりゃ、ニーさんを待ってたに決まってるじゃん?」
葉はニヤリと笑うが声に張りがない。
「いつもは窓から勝手に入ってくるくせに」
「窓から入ったら入ったで怒るくせに~」
葉がおどけた仕草で賢木の頬に人差し指を突きつける。その指がひどく冷たかった。
「……お前、いつからここにいたの」
「さあ?」
葉はおどけてみせるが、唇の色が悪い。賢木は無言で部屋のキーを取り出すと、カギを開けて葉を中へと誘った。
「入れ。今、風呂入れてやるから。溺れるなよ」
「いいよ、そんなのよりさ」
広いとは言い難い玄関で靴を脱がずに二人密着しているので、葉は傘を脇に立てると容易に賢木の顎を取り、顔を近づけてきた。
「ニーさんのほうこそ、俺に溺れてよ」
そして返事を聞かないキスを与えられる。唇は冷たいのに口腔内はひどく熱くて、混ざり合った唾液が口の端から零れる。
――溺れる。
いつからこんな真摯なキスをするようになったのか。いつから自分はそれを拒めなくなっていたのか。
言葉はなくても気持ちは伝わる、そんな幻影に踊らされながら、それでもいいと思う自分がいた。
<終>
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お題:「夜の廊下」で登場人物が「溺れる」、「傘」という単語を使ったお話を考えて下さい。
もっと喧嘩っぷるにしたいんですが、なかなかそこまで発展してくれません。南無三。
お返事