■休校 afternoon time■
今日もいつもと変わらない一日が始まる。はずだったのだが、職員室から戻ってきた委員長のひと声でクラスの雰囲気が変わった。
「今日の午後は休校だってよ!」
「えー何で?」
「三年生の学級閉鎖が半数を超えたんだと」
入り口近くにいたクラスメート達がわいわいと騒いでいる。
「ラッキー」
「だね」
澪とカズラがウインクを交わす。一呼吸置いてパティが呟いた。
「どうせなら午前も休校にすればいいのに……」
「だよなあ」
パティの言葉にカガリが携帯を弄りながら頷くと、後ろから声をかけられた。
「それは言わないお約束」
「やな」
紫穂と葵だ。二人とも喜びを隠せない顔をしている。その二人を押しのけるようにして、薫が顔を現した。
「ねえねえ、みんなで街に繰り出さない?午後から!」
「え、でも……」
パティが戸惑うと、澪もまた困惑を隠せない声で薫に向き直る。
「あたしたちパンドラで、あんたらバベルじゃないの」
「カタいこと言わないで。今日くらいいーじゃん」
「そうそう、せっかく昼間っから街を歩くチャンスやねん。なあ?」
「そうね、あたし一緒に行きたいな」
カズラが頷くと、パティと澪も喜色を浮かべて頷いた。
「わかった、行こう!」
一同が意気投合したところに、携帯の画面に目線を落としたままのカガリがぽつりと呟いた。
「あー俺、パスするわ」
「えーなんでー?」
紫穂がカガリの携帯を覗き込むような角度で顔を近づけてきたので、カガリは携帯を隠すように伏せて口を尖らせた。
「別にいーじゃん」
「こういうのは団体行動やで、足並み乱すのはよくないわー」
葵もまた紫穂の隣から口を出してくる。
「だってホラ、男は俺一人だしさ」
「そう言われればそうねえ……じゃあちさとちゃんと東野も誘うからさ」
薫が名案、とばかりに詰め寄ってきたがカガリはパタパタと両手を振った。
「いいって、ホントに。女同士で楽しんでこいよ」
「いいって言うならいいんでしょ、女子で行きましょ」
この話はここまで、とばかりに澪が切り上げて、カガリは内心ほっとする。
そこにチャイムが鳴って、皆が席に戻る。カガリは伏せてあった携帯を机の下で開く。画面に浮かぶ文字は。
『四時間目が終わったら午後から二人でどっか行こう』
宛先は葉だった。カガリは文面をもう一度あらためると、送信ボタンを押して机の中に携帯を隠した。
『サボりか?別にいいけど。裏門まで迎えに行くよ』
授業中に受け取った葉からの返信を何度か確認しながら、裏門へと急ぐ。
赤みがかった茶色の髪に、ジーンズにネイビーブルーのシャツを着た男性の姿が見える。
「――葉兄ィ!」
声をかけると男性が振り返る。やはり葉だった。
「よう、カガリ。なに、やっぱりサボりなの」
「午後から休校だよ」
「他の奴らから迎えの時間の変更は来てないけど?」
「みんな俺とは別行動だよ。信用しろよ。俺は選んだんだからな」
女友達よりも、目の前の男を。
「何が」
きょとんと丸く開かれたブルーの瞳には疑問の色が濃い。
まったくわかっていない顔だ。
「まぁいいけど」
これからわからせればいい話だ。葉の腕に横からごつんと頭突きする。
「行こうぜ。二人でってところに意義があるんだから」
そう言うと頭突きしたカガリの額を葉が撫でる。
「たしかに、カガリと平日出かけるなんて最近じゃ珍しいから、お兄ちゃんは嬉しいよ」
葉が本当に楽しそうに笑うので、カガリも嬉しくなって葉の手を上から握り返した。
<終>
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yokoyama_kariさんは、「朝の教室」で登場人物が「選ぶ」、「メール」という単語を使ったお話を考えて下さい。
休校日に休んでるとすごく損した気分になりますよねというお話。
ぱちぱちありがとうございます!
お返事