■あわただしい朝 morning glory■
風邪から解放されて歩く外の空気は気持ちよく、近場のコンビニまでの短い道中も楽しんで来れた。
早朝のコンビニの中の雑然とした空気さえ人の気配に満ちあふれていて居心地が良い。
賢木は風邪をひいていた。少しだが寝込んでもいた。
数日前、ただでさえ風邪気味だったところに闖入者がやって来て、風呂場であれやこれやしていたのが決定打だった。
「これもあの鳥頭の野郎が……」
最も、大した抵抗もしなかった賢木にも責任はあるかもしれない。熱のせいで抵抗出来なかった、だけではないことを賢木はきちんと自覚している。
別に買う用もない雑誌類を見渡してから飲み物に目を遣ると、見覚えのある鳥頭が棚の向こうに見えた。間違いない、葉だ。
「なにやってんだ、アイツ、こんなところで」
いつもは朝は弱いとか言ってごねるくせに、こんな早朝に何をしているのか。もう少しですれ違うところだったではないか。
「おい……」
声をかけようとして、いや別に、無理に会う必要はないよな、と賢木は考え直す。たまたま近くに来ていただけかもしれないし、自分もこの後すぐに出勤の用意をしないといけない。
カゴは持たずにスポーツドリンクとのど飴を手にレジに並び、会計を済ますとごく当たり前に店を出る。
「ニーさん!」
店を出てすぐに、心のどこかで待ち望んでいた声がして振り返る。
「よう」
少し照れくさい気持ちでポケットに手を突っ込みながら応対する。
「ちょうど良かった、ニーさんに会えて」
葉は少し肩身が狭そうにしながら上目遣いで見上げてくる。
「なんだその目。さては、なんか悪巧みしてるんじゃねーだろうなあ?」
笑いながら自らの腰に手を当てたが、勤務中でもないのにESP錠を携帯しているはずもなく、葉に笑われる。
「ニーさんこそ丸腰じゃん、まだ判断力が回復してないのかな?このヤブ医者」
「誰のせいだと思ってるんだ」
「悪いと思ってるよ。だから、これ」
と、コンビニの袋を渡される。
「なんだこれ」
「差し入れ。ホントは時間ないから窓から放り込んでおこうかと思ってたんだけど、ま、受け取ってよ」
じゃあね、と一気にまくしたてると、葉は駆けだして行ってしまった。
「なに、あいつ」
残された賢木は呆然とするしかない。
と、袋の中を覗き込んでみると、そこにはペットボトルのスポーツドリンクに水と、賢木が買ったものと同じのど飴とが入っていた。
「……結構似たもの同士だったりするのかな?」
それとも超能力者同士のシンクロだろうか。賢木は自分の買い物袋の中身との類似性に苦笑いする。
どうせならセクシー美女とシンクロしたいものだが、と考えながら賢木は二つに増えた買い物袋を腕から下げて、自宅へと向かった。
<終>
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お題:「早朝のコンビニ」で登場人物が「すれ違う」、「水」という単語を使ったお話を考えて下さい。
お風呂えっちはさりげなくほのめかす程度でお許しを(てへ)