昨日更新したものと同じお題で葉×兵部です。どうぞ。
■眼前の嵐 storm■
夜、オーディオルームから自室に戻る途中の階段の手前で、廊下の向こうから来た兵部と出会った。
「宵っ張りだね、葉」
「ジジイこそ、早寝早起き乾布摩擦しなくていいのかよ」
ハアァ、と兵部は声に出してため息をつく。
「どうしてそこまで口の悪い子に育っちゃったかなあ」
「誰かさんのお・か・げ」
葉は兵部の腕に自分の腕をくっつけるようにしてすり寄った。
「何だい、葉。何か……」
「ジジイさえよければ、だけど、俺の部屋に来ない?」
時計はもう深夜を回っている。この時間にどちらかの部屋に行くということは一つの未来を指している。
「やだね。君の部屋、ゲームだのDVDだのでごちゃごちゃしてるんだもの」
「ちぇっ。年相応の若者の部屋だと思うのになー。じゃあさ、今度片づけておくから……」
「僕の部屋、ならいいけど?」
一瞬言葉の意味が分からなかった葉だが、改めてその意味を考えるとにっこりと笑った。
兵部は心の中でため息をつく。やれやれ、僕は葉のこの笑顔に弱いんだ。どうしてこんなに、嬉しそうに笑うんだろう――。
シャツの裾から手を入れると、兵部がくすぐったそうに身を捩る。
「ちょっと葉、がっつきすぎだぜ」
「そんなの俺の勝手だろ?」
首筋にキスを落としながら手は兵部の腹から胸を撫で上げていく。
「少しはムードとかさ……」
「きーこーえーまーせーんー」
そしてまたあの笑顔でくつくつと笑うのだ。兵部は声をひそめてひとりごちる。
「溺れてるのは、どっちかな?」
「え?何か言った?」
「別に?」
葉はまだなにか不思議そうにしていたが、またすぐに兵部の身体を愛撫することに神経を傾けることに決めたようだった。
ざあざあと雨が降っている。だけではない。時々雷の音も大分遠くでだが確かに聞こえる。
「こんな嵐の夜には思い出すよ」
「ん?」
もう無理、と葉が兵部を解放してしばらく経ってから、ベッドの中の兵部が言葉を切り出してきた。
「君がちょっとしたことでもすぐ眠れないって言って僕の布団にしょっちゅう入り込んできたこと」
「ちょ、ちょっと、もう時効だろ!?」
自分でもおぼろげにしか覚えていない幼年期のことを言われると、葉としては平伏するしかない。
ベッドの上で葉の方を向いたままで、兵部は口に手を当てて笑っている。
「変な子供だったよね。目の前で雷がおちても微動だにしなかったくせに、嵐の音がするだけで僕のところに来てさ」
「まぁ、そういうことにしといて」
幼年期のことでも、葉はきちんと覚えている。別に雷や嵐なんてこれっぽっちも怖くなかった。ただ、兵部の布団に潜り込む理由が欲しかっただけだったのだ。
「そのくせ、なかなか寝ようとしないのな」
「だから……まぁ……」
あの頃は、世界の全てが兵部と、そして真木と紅葉、その三人と自分だけだった。そして外見上は年若いとはいえ、「大人」は兵部しかいない。葉は――そんなことはないと知っていても――他の二人に兵部を取られたくなくて必死だった。
「ま、夢が叶ったと言えるかな」
呟いて兵部を抱き寄せると、兵部の方が子供のように葉の肩口に顔を埋めてくる。
「あーなんで俺、真木さんや紅葉みたいな長身に育たなかったんだろ」
「嫌なわけ?」
「まぁ嫌ってほどじゃないし、キスする時とか、気を遣わなくていいからラクだけど」
「なら我慢しなよ。それとも、僕だけじゃ不満?」
兵部の言葉に葉は少し拗ねたような声で答える。
「アンタ以上に欲しいものなんてないよ」
それは葉の素直な気持ちだ。願い、でもある。
「四六時中俺のことしか考えられないような身体に調教して、俺だけのものにしたいくらい」
「それは……」
兵部はついに吹き出してしまう。真剣な話なのに。いや、真剣な話だから、かもしれない。
「僕にも人権くらい認めてよ」
「いくらでも認める。だから俺のそばから離れないでよ」
それは小さな頃からの口癖だった。
俺のそばにいて。俺を置いていかないで。
兵部の笑い声が止む。囚人として拘束されている身分の兵部には、それらの願いを完全に叶えることは最後までできなかったのだ。苦悩に満ちた顔で葉の視線を受け止めている。
「――」
「……」
「――わかった、わかりました」
葉が譲歩した。これ以上強硬にしたところで、兵部が変わってくれるわけじゃない。
「もう言わねーよ」
指で兵部の髪を玩びながら、それでも少しでいいから、変わっていてくれるようにと祈って。
<終>
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お題:「深夜の階段」で登場人物が「思い出す」、「嵐」という単語を使ったお話を考えて下さい。
同じお題で二度目です。が、基本的に、カップリングの明確な話を書くときは全て別次元として書いてます。つまり葉兵の世界では兵部と真木はできてません。
そろそろ似たような単語が出てきたなぁ・・・と別のジェネレーターを探してみたところ、こんな結果に!
「■キーワード 70. 人類の未来 205. 育毛剤 132. 日本刀 」
も っ と 無 理 でした。育毛剤ってあーた・・・
哀れみを感じたならぽちっと拍手をば。とっても生きる気力になります。
お返事