■アトラクション Attraction■
時刻は早朝。今日は都内某所にある遊園地が貸し切りである。もちろん『パンドラ』の潤沢な資金を使ってのことだったが――
「なんで諸経費は僕もちなのさ、まぁいいけど」
「ジジイはこの間ザ・チルドレンのガキどもと来たんだろ?俺らは来てねーもん。ひいきはよくない」
「そうよ、少佐も楽しみましょ。さてどれから乗ろうかしら」
珍しく早い時間だというのに、真木を除いた全員が集合している。澪やカズラ、カガリ達はもうアトラクションのほうに行ってしまい、集合場所のメリーゴーランドに残っているのは兵部と葉と紅葉の三人だけだ。その紅葉も、ワクワクとマッスルとコレミツの向かったお化け屋敷のほうにむかって去っていった。
「あの二人にお化け屋敷は絶対にミスマッチだと思うんだけど……葉は遊ばないのかい?」
「遊びに行くよ。京介こそ何か遊びたいものは?何もない?」
「僕はこの間来たばかりだからねえ……」
動力の入っていないメリーゴーランドを見上げながら葉が問い返すと、兵部はおちついた声であたりを見回しながら呟いた。
「……こと、したなあ」
「何?」
「いや、真木にね、悪いことしたかなって」
先日兵部が遊園地に来たときに運転手役として付き添った真木が、今日は留守番ということになった。
「前回真木は園の中には入らなかったから」
兵部はチルドレンたちと遊んだが、真木は見張り役だった。
「ぶー」
突然葉が口を膨らませたので兵部が驚く。
「どうしたのさ、葉」
「それ、さめる」
「え?」
「二人でどっか回ろうって誘いたかったんだけど、いい、やめとく」
「は?」
「わかんないかなー、もー!」
葉は兵部の二の腕を掴むと、自分と大差ない身長の兵部を抱き寄せる。
「二人きりの時に他の奴の話をするなって事!」
「あ……うん、わかった」
兵部は素直に頷いたが、葉はそれでも気が済まなかったらしい。
「じゃ、一緒に回ろうぜ、いいだろ?」
舌の根も乾かぬうちに正反対のことを言い出した葉の言葉に、兵部は葉の背中を抱くようにして叩くと頷いた。
「勿論」
「京介、時計持ってないよね」
「持ってないよ。携帯も置いてきたし」
「俺も携帯しか持ってないんだよな、集合時間に遅れないようにしないと」
基本的に待ち合わせ場所を除けばこういった場所には時計が少ない。日常から切り離すための気配りの一環なのかもしれない。
途中でふらふらになった紅葉とそれを抱える黒巻とすれ違った。コーヒーカップを模したアトラクションで、中央のテーブルを回すとカップも回る仕組みになっているのだが、それを調子に乗って回しすぎて酔ったらしい。
「それ面白そー、俺らもやりに行こう!」
葉は兵部の手を引っ張ってコーヒーカップのアトラクションへ向かう。クリーム色のカップに乗ると、必死でテーブルを回しはじめた。すると兵部がクス、と笑う。
「なに?」
「楽しそうでよかったなって」
上を見上げると、園の上を取り巻くようにゴンドラが走っていて、九具津が引率する年少組の子供達を載せたものがゆっくりと動いているさまが見えた。
「ちょっと、目が回るけど」
でも目が回るほど楽しい、というのはすごくいいことなのではないだろうか。
巡る視界の中、兵部はそんな事を考えていた。
<終>
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お題:「早朝の遊園地」で登場人物が「さめる」、「時計」という単語を使ったお話を考えて下さい。
タイムアップ!観覧車に届きませんでした、すみません!ごめんね葉ちゃん!
読み終えたらぽちっとね☆