■ご褒美 candy■
花屋から出てくる二人の男性のうち、花を持って、もとい持たされているほうの男性が口を開く。
「少佐ってさ、紅葉への贈り物はいつも花束だね」
「感謝の気持ちに花をもらって嫌がる女性はいないよ」
「マジ?紅葉あたりは花なんか食べられもしない、とか言い出しそうだけど」
花を持っていないほう――兵部がクスクスと笑う。
「なに?」
「いや、確かに昔言われたことはあるよ、君が言ったとおりのこと」
「だろ?」
葉も同様に笑う。
「男がもらってもいいんじゃね?」
「欲しいのかい、葉。なんなら今持ってるのあげるよ。君も紅葉と一緒に同じ任務をこなしたしね。紅葉にはケーキを買っていくことにするよ」
「どっちもいらない」
葉が少し拗ねた顔をする。兵部はその髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回した。
「なんだよ」
「よくやったね、葉。今回は君たちの負担が大きかったから、何か欲しいものがあるなら言うといい」
「欲しいもの、ねえ……まぁ花束はいらないから、他のもの考えとく。つっても、どこに何が売ってるのかさっぱり分からないんだけど」
「僕ら全員、この街ははじめてだからね」
今二人は出先の某国の市街を歩いている。葉と紅葉の活躍でもう任務は済ませたあとなので、夕暮れの街を歩く足取りも軽い。
「昔みたい」
「僕も今そう思ってた。まだ小さい頃、いろんな街を転々としたからね」
一つ所にとどまることのない生活は彼らにとって仕方のないことだったが、色々苦労もあったろうと兵部は思う。
「いつだっけかは、近くに公園がないって泣いたっけ」
「余計な事だけ覚えてんじゃねーよ。恥ずかしいじゃん」
「いつも君が最初に泣いてたね」
「……だから紅葉と真木さんが泣けなかったんだろうな、今考えると」
葉の言葉に思わず歩みを止めると、怪訝な顔をして葉が振り向いた。
「なんだよ」
「驚いた。君の口からそんな言葉が出てくるとはね」
「俺だって成長するんだよ。さ、ホテルに戻ろうぜ、真木さんが心配する」
少し乱暴な仕草で花束を肩に担ぐと、葉は兵部を促す。
紅葉にはいつも花束を渡しているけれど。
改めて葉や真木に何を渡すかと思い返してみると、特に思い当たらないのがシャクで。
「あ、葉、そこのお店寄るからちょっと待ってて」
「あ?うん」
葉を街角に立たせたままで兵部はさっさと買い物に出かける。
一方、葉の方は。
「……どう見ても食料品店だよな」
葉の見つめる、兵部の入っていった店はどう見ても食料やその類を扱うもので、果たしてホテルの食事で何か足りなかったのだろうかと思う。
「葉ー」
兵部が何をしにストアに入ったのか推理するのにも飽きて欠伸をかみ殺していると、戻ってきた兵部に声をかけられた。
「遅かったなジジイ」
「いろいろあるから悩んじゃって――ほら、ご褒美」
背中に隠した手を前に持ってきて葉の鼻先につきつける。
「ペロペロキャンディじゃねーか!」
小さい子供が持つ、掌大もある大きな飴だ。カラフルなハロウィンカラーになっている。
「あれ、昔から葉のご褒美といえばそれだったけど?」
「~っ~~!!」
面白いくらい真っ赤になって葉が憤っている。恥ずかしさに。
「手」
「ん?」
「そっちの手、見せて。どーせ真木さんのも買ってきてんだろ」
言われると特に気にした様子もなくもう片方の手を差し出す。ストアの袋に入った、円筒形のなにかだ。
「別に、ただのコーヒー豆だよ。面白くもないだろ?」
「俺のは面白いのかよ!」
「うん。すごく」
そして思いっきりの笑顔を見せてやると、葉がぷいっとそっぽを向いて歩き出した。
「葉?」
「ホテル戻るぞ!待ってて損した!!」
「ちょっと、もう少しゆっくり歩いてよ、葉ってば」
とか何とかいいながら、花束を持ったほうと逆の手に、ちゃんとペロペロキャンディを持っているのが葉の葉らしいところだと兵部は思うのだった。
<終>
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お題:「夕方の旅先」で登場人物が「見つめる」、「花束」という単語を使ったお話を考えて下さい。
色気のない葉兵部です。メインが花束だからなのですが。
花束がお題になるのは5回目くらいですかね。そろそろ本格的に別のジェネレーターを探したほうがよさそうです。(まぁやりやすいのでそのままにしていたという面もあるのですが・・・)
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