■冠 born■
海を臨む水族館、早朝の、職員がまだ起き出して来る前のひととき。
「では、解散!」
真木の言葉に、ミーティングを終えたパンドラのメンバーが散り散りに去ってゆく。多くの者はテレポートで。遠くの各支部から来たメンバーを見送った葉と真木を伴った紅葉がテレポートでいなくなると、残ったのは澪と、マッスルとコレミツだった。
「帰らないの、澪?」
「たまにはさー、ちょーっと見ていってもいいかなって思って。水族館」
『他の者に見つからなければ大丈夫だろう』
そんな会話があって、三人はじっくりと開館前の水族館を回る。言い出しっぺの澪が早起きのせいかふわぁ、と欠伸をする。
「アラ眠いんじゃないの、澪?」
「そんなことないもん!」
『無理はするな。文化祭の準備で忙しいんだろう』
「そうだ、文化祭!」
コレミツのテレパスに、澪が反応する。
「二人とも見に来てくれるよね、文化祭!今チョーがんばってるんだよ!『ナイチンゲールとバラ』って劇やるの。知ってる?」
『知らないな』
「アタシ知ってる。でもあれって悲恋じゃなかったかしら」
「もー悲恋も悲恋。超バッドエンド。だけどちゃんとどんでん返しがあるんだよ!絶対見に来てくれるよね、マッスル、コレミツ?」
『もちろんだ』
澪の言葉にコレミツはすぐに頷いたが、マッスルは顎に手を当てて考え込んでいる。
「んー。アタシは無理、かも」
「えー!」
「大使のおシゴトがあるからね。顔もマスコミで露出しちゃってるし、人の集まる場所はちょっと厳しいかしら」
「そっかぁ……」
あからさまにしゅんとしてしまった澪の頭に、コレミツが大きな手を乗せる。
『澪はどんな役をやるんだ?』
「秘密ー。でも主役なら教えてもいいかな。予想してみてよ!」
「アラ誰なの?」
『その言い方だと、カズラとカガリは違いそうだな』
「じゃあ、クイーンか、ゴッデスか、エンプレス?」
「クイーンだよ!悔しいけどあいつ、ああいう役似合ってるんだ」
頬を膨らませる澪に、マッスルが忍び笑う。
『ああいう役?』
「うんそう、なんていうのかな、生まれついて頭に冠被ってるような奴なんだ、クイーンって」
神様を信じてはいないが、神様が選んだと言われたら納得してしまうような人間がいる。澪の言うところの『生まれついての冠』というのはその生まれ持ったスター性を指すのだろう。
「わかるわぁ、クラスに一人くらいいるのよね、カリスマっていうの?必ず主役になる子って」
「マッスルはどんな役をすることが多かった?」
澪の質問にマッスルが嫌そうに眉をひそめ、残りの二人から少し距離を置いて呟いた。
「……ワカメ」
『なに?』
「ワカメよ、ワカメ!!『クネクネしててちょうどいいから』ですって!ひどいわよね!」
思い出すのも恥ずかしいのだろう、顔を真っ赤にして憤慨するマッスルの姿に、澪とコレミツが爆笑する。
「あはははっ、マッスル、面白ーいっ!」
『適材適所じゃないか』
「うるさいわね!!」
「可笑しいー!あっはははは、あはははっ!」
マッスルが二人を咎める仕草もまた微妙にクネクネしていてツボにはまってしまった澪の笑い声は、無人の水族館に長い間響き続けた。
<終>
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お題:「朝の水族館」で登場人物が「予想する」、「冠」という単語を使ったお話を考えて下さい。
本誌のさぷりめんと、文化祭に澪に誘われてやってくるコレミツというのがあまりにツボすぎて・・・!萌えるジャマイカ!
いつも拍手ありがとうございますー。