■落とし物 Lost article■
もうすぐ日が暮れそうだというのに、子供達は活発に外を歩き回っている。その影は一様に何かを探しているふうだ。
年に何度か訪れる某地方にあるパンドラの別荘。そこの裏庭から森にかけて、まんべんなく子供達が散らばっている。
中には葉とカガリの姿もあった。
「何で俺がこんな地べたをはいずり回らなきゃいけないんだろ」
「言うなカガリ。俺もどちらかというと浮いているほうが好きだ」
子供達の一人が、かくれんぼの際に誤ってリミッターを落としてしまったのだという。腕時計の形をしたそれは真木の見立てた品で、兵部から贈られたものらしいのだが。
「少佐に言ってサイコメトリしてもらえば一発でわかるんじゃねーの」
「少佐と真木さんには知られたくないんだと」
その心境は分かる気がしたので、カガリも黙々とススキ野の中を突き進んでいく。この先の森の入り口のほうにまで隠れに入ったらしいので、カガリが自らの肩の高さまであるススキの中を屈みながらゆっくり進んでいると、同様に背の高い草むらに辿りついた。と、反対側から探していた葉に名を呼ばれた。
「カガリ」
「ん?」
近づいてきた葉に両頬を挟まれたかと思うと、葉の顔が近づいてくる。
「葉兄ィ?」
「キスしない?カガリ」
「なっ、なっ……」
何を言い出すかと思えば、とんだ不意打ちだ。――いや、もしかしたら葉はいつもこんな風だったかもしれない。人を困らせて、焦らせて、楽しんでいるに違いないのだ。
「誰かに見られそうだと怖い?」
「っ、んなことねーよ!」
「じゃあいいだろ?」
「……わかった。でも、俺がする」
「いいよ?」
微笑を浮かべる葉の唇が視界に入ると胸が高鳴る。売り言葉に買い言葉という気がしないでもないが、いやだからこそ、葉に主導権を握られるのは嫌だった。のだが――
「なんちゃって」
唐突に葉が自分の唇をカガリのそれに押しつけてきた。
「んっ!――ん……」
唇を割って舌が入り込んでくる。歯列の上をなぞると、今度は下側を攻め、やがて口腔の内側へと侵入してくる。そして躊躇うカガリの舌に自分の舌を絡ませて快感で蹂躙する。ふりほどくことなんて全く考えも及ばない位に、執拗に嬲られる。
やがてようやくその束縛から解き放たれると、悪戯な瞳をした葉の顔がそこにあった。
「奪っちゃった」
「っ、葉兄ィの阿呆!」
頬が火照る。恥ずかしくて、とてもこの場にはいられない。
「こら、聞こえるってば」
「しらねーよ!」
すっくと立ち上がってその場を去ろうとした所で葉が叫んだ。
「ストップ、カガリ!」
思いがけず真剣な声だったので、カガリは踏み出そうとしたその足を止めて振り返った。葉が指で下を指す。
「足下に落ちてる、リミッター!」
葉に言われて自らの足下を見ると、腕時計型をしたリミッターがそこに落ちていた。間違いない。
「あった……!」
拾ってみると砂埃が少しついているだけで、留め金が外れている以外には故障も異常もなさそうだった。
「この留め金が外れて落としちまったんだな」
「よかった。俺、渡してくる」
「おう、そうしろ。でもカガリ」
「ん?」
渡しにいこうと振り返ろうとしたところを呼び止められる。
「ちゃんと、二人の共同作業で見つけたって言うんだぞ?」
これ以上火照ることはないと思った自分の頬の熱が、ついに耳にまで到達する。
「葉兄ィの……馬鹿!」
「忘れるなよー」
ひらひらと手を振る葉を置き去りに、カガリはその手にリミッターを持ち、頬の火照りをさましながら、子供達のいる方へと駆けだした。
<終>
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お題:シチュ:草むら、表情:「目を瞑る」、ポイント:「不意打ち」、「自分からしようと思ったら奪われた」です。
またしてもキスお題から。あいかわらずカガリがいじられてますな。そのうち逆襲させたいものですが・・・いつになることやら・・・?
読み終わりましたらぽちっと拍手していただければ幸いです。