■言伝 message■
めちゃめちゃに街を歩いてきたら、いつのまにか海の見える場所に到着していた。
夕方の海辺だというのにカップルがいちゃついていないのは喜ばしい。
が、紅葉の心中は喜びとは反対の感情が支配していた。後悔、だ。
「やっちゃったなぁ……」
今日はとある普通人の団体との交渉だったのだが、相手をした幹部のねっとりとした目線に、最初から嫌なものを感じてはいた。だが、話すときはやたらと近寄る、横にすり寄ってくる、ボディタッチが多い、その上でトドメに「どうだね、悪いようにはしないから、うちの組織にこないかね。私の秘書としてでもかまわないよ?」と耳元で囁かれて、堪忍袋の緒が切れた。その場で回し蹴りをかまして憤慨したまま取引場所を出て……気がついたらこの場所にいた。
「あーどうしよ」
ロビエト大統領などと取引のあるパンドラにとって、あの程度の規模のノーマルの団体、それほど過大な失態ではないと思うが、やっぱり気が重い。どう報告したらいいのだろう。たとえば真木などは。
「一体何があった」
そうそう、そんな感じで渋面で――
「――真木ちゃん?」
慌てて振り向くと、道の端に車を停めた真木がスーツ姿で立ってこちらを見ていた。
「少佐から連絡があった。紅葉を迎えに行けと」
どうやら少佐は、全て見越しているらしい。
「何があったって、そりゃあ――あ」
腰に手をあててから、ポケットの中にレコーダーを仕込んでいたことを思い出し、真木に手渡す。
「これを聞けと?」
「そしたらわかると思うわ……あたしの失態がね」
我知らずため息が漏れる。
「失敗したのか?」
「そうよ、悪い?」
開き直ってみたが、真木の態度は変わらない。
「とりあえず、車に乗れ」
真木に促されて助手席のドアを開くと、そこには花束があった。黄色いガーベラをメインとしたイエローとホワイトの花束だ。
「何、これ」
「少佐にこれを渡すようにと言われてきた。それと、言づてを頼まれた」
「え?」
「『今日はよく我慢した、女性だからと差別をする者はエスパーだからと差別するものだから、交渉は決裂で正解』だということだ」
ハッとして顔を上げると、運転席に座った真木が優しく微笑んでいる。――二人には全てお見通しだったのだ。
「なによ、わかってたんなら言いなさいよ。反省したあたしが馬鹿みたいじゃない」
「いや、しょげている姿が珍しかったもので、つい、な」
「何がつい、よ!」
姦しい二人の声と花束を乗せて、車は静かに走り出した。
<終>
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お題:「夕方の海辺」で登場人物が「開き直る」、「花束」という単語を使ったお話を考えて下さい。
真木紅葉っておいしいです。ただ真木さんをヘタレにするか男前にするかでまだ悩んでいたりします。
拍手コメントいつもありがとうございます。