ライトめカガリ&葉。
■眠り sleep■
豪華客船とはいえ船は船なのだから、外海に出ればそれなりに揺れる。とくに舳先は上下しているから、思わずよろめいたりもする。
「おっ、とと」
なんとなく気分で船の甲板から舳先へと歩いてくると、カガリの足がよろめく。と、誰かに背中を支えられた。
「――葉兄ィ!」
そこには三日ほど前から任務で海外へと渡っていたはずの葉が立っていた。
「まだまだだな。なにしてんの、こんな所で」
「まだまだで悪かったな!気分だよ。葉兄ィもいないし、暇で――」
言ってからしまったと気付く。が、もう遅い。
葉はにんまりと笑うと、さっそくからかいはじめた。
「へーぇ、俺がいないと暇なの?」
「いい!俺はもう部屋に帰るから!」
「そう言うなよー」
支えられていた手を剥がすように離れて、一路自分の部屋へと向かった。のだが――
「……なんでついてくんの」
「んー、そういう気分だから?」
「……まあいいけど」
本当は少しだけ、嬉しくないこともないのだが、何故か素直にそうは言えなくて。しぶしぶという形で葉を部屋に招き入れる。
と、葉は一目散にベッドへと向かうとものすごい勢いで飛び込んだ。
「ちょ、壊れる!」
「大丈夫だって!あーカガリの匂い」
「……っ」
そういう恥ずかしいことを真っ昼間から堂々と言わないで欲しい。しかしなぜベッドなのか。
と、葉が手をちょいちょい、と招いてカガリを呼ぶ。
「カガリー」
「なに?」
覗き込むようにして近寄ると、腕を掴まれて強く引っ張られる。
「うわっ!?」
「布団冷たい。カガリのほうがいい」
そしてぎゅうぎゅうと抱き締めてくる。
「おま、ちょっと、わー!!」
両足まで使って文字通りカガリを羽交い締めにすると、首筋に嬉しそうに頬をすり寄せてくる。顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。
「葉兄ィ?」
「一緒に寝ようよ、カガリ」
「はぁ?まだ三時前……」
そこまで言ってから葉の目の下にできた隈を見つける。もしかして。
「葉兄ィ、寝てないの?」
「時差の関係で、ここ40時間くらいは起きてたかなー……」
「それならそう言えよ」
「んー、眠くてめんどくさかったの」
めんどくさい、で手順を省かれたらたまったものではない。自分には何の理由もなく男と一緒に寝る趣味はないのだ。睡眠不足と聞いていれば湯たんぽがわりも引き受けようというものだ。――緊張するけど。
しばし口を閉じて、ようやくカガリの体の緊張が解けてきた頃、葉の吐息は規則的で穏やかな寝息に変わっていた。
「葉兄ィ?寝たの?」
「……」
おずおずと聞いてみるものの、戻ってくるのは寝息ばかり。
葉はカガリを羽交い締めにしたままぐっすりと眠ってしまったようだった。
「……はぁ」
ついため息が出る。まったく、よくこんなポーズのままここまで男同士でひっついて眠れるものだ。
そして火照った自分の体を鑑みて思う。
「――俺は絶対眠れそうにないんですけど……」
もう一度大きく息を吸って心を落ち着かせながら、それでも目を閉じてみると、船がゆっくりと揺れているのが実感できた。
その揺れに意識を委ねることにして、カガリはそれ以上のことを考えることをやめた。
<終>
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題材[揺らめく,船,よろめく,まだまだだ]恋愛ものっぽくやってみよう!
恋愛ものっぽくやってみました!ハァハァ。い、息が切れた・・・。
ぽちっとありがとうございます。
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