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hyoubutter short story

hyoubutterのショートショートストーリー集
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潜水艦 Submarine

カガリと葉と潜水艦。


■潜水艦 Submarine■

 潜水艦の中を探検しようと言い出したのは葉だった。
 いつもカタストロフィ号と並んで海原を泳ぐ大きく真っ黒な鉄の鯨、その内部を探るという提案は、カガリの冒険心をくすぐるのに充分だった。カガリは自ら喜んで葉の策略に力を貸したのだったが。
「うわああぁぁ――!」
 真っ暗な中を落下しながら、カガリは心の底から己の行いを悔いていた。
 が、落下は長くは続かず、尻もちをつくようにしてカガリは床に投げ出される。
「おいカガリ、大丈夫か?」
 大丈夫じゃない、と文句を言いたいところだったが、衝撃が大きすぎて全身がしびれたようになってしまい、声が出ない。
「カガリー?」
 しかも葉の声は次第に遠くなっていっている。
 これは本格的にまずいかもしれない。なんとかして自分が今いる場所を葉に知らせようとしたのだが、葉の声は次第に遠のき、やがて一切聞こえなくなった。
 ――どうして、こんなことになったのだろうか。
 無人の潜水艦に忍びこんだは良かったが、当然の事ながら明かり取りの光のひとつもなく、懐中電灯は用意していなかったが、カガリのパイロキネシスで松明がわりにしようという提案は、何かの証拠が残ればいけないからと却下された。
 それでも真の暗闇の中、手探りで冒険を続け、これはセンサーだとか、この取っ手は配電盤じゃないかとか二人で騒いでいるだけで楽しかったのに。
 葉が何かのハンドルを見つけたと言ってそれを回し出したら、少し離れた場所にいたカガリの足下にぽかりと穴が開いて、縁にしがみつく間もあらばこそ、暗闇に投げ出された。
 一体、どうなっているのだろうか。周囲があまりに暗くて、身体が痛くて動けないために、まだ落下してから数分しか経ってないようにも、数時間経ったようにも思えた。夢か現かすらもはっきりしない。その上何故かサイコキノも使えない。もしかしたら頭も軽く打ったのかもしれない。
 どのくらいそうしていただろうか。葉の声が聞こえなくなって、心細さよりも暗闇と自分との境界の曖昧さをこそ畏れていたカガリの視界に、まばゆい光が差し込んだ。
 上部に亀裂のようなものがあり、そこに人影が見える。
「カガリ、出ておいで。意識はあるかい?立てないなら手を伸ばしな」
 影はそう言うと、カガリに向かって掌をさしだしてきた。白くて華奢な指に引かれるようにしてカガリは自らの手を伸ばす。あんなに闇の中にいたのに、黒くなっていないのが不思議なくらい、いつもの自分の手だった。
 手と手が重なると、奇妙な浮遊感の後、床の上に座っていたポーズのまま、視界が急に明るくなる。
「迷子のカガリ、お帰り」
 そう言って今もカガリの手を握っているのは兵部だ。テレポートでカガリを上の階層まで運んだのだろう。
「緊急用の収納スペースに落ちたんだな」
 明かりを隙間に差し入れて、真木がカガリのいた場所を照らす。そのさらに後ろに、葉の姿があった。
「葉兄ィ……」
 声をかけると、葉が申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「悪かった、カガリ。こんなことになると思わなくってさ……」
 葉は心底反省しているようだった。が。カガリは兵部の手を振り切ると。
「葉兄ィ!てめぇ、もー許さねえ!!ブッ飛ばすっ!!!」
 身体の痛みをおして立ち上がろうとして、無様に床に手をつく。
「ってぇ……」
「無理しないの。ああでも骨は折れてないよ、カガリ、安心しな。きっと打撲だね。サイコキノが使えないのも一時的なものだから」
 カガリの身体の調子を透視んだらしい兵部の弁によれば、あまり大事にはなっていないようで一安心だが。
 殴りたい。一発殴らないと気が済まない。そんなカガリの目線を知ってか知らずか、真木が葉に言い放つ。
「葉、お前が看病するんだな」
「えっ、俺殴られるの嫌なんだけど」
「自業自得だ」
「だね」
 真木と兵部が落ち着いた口調で話しているのと今の自分の有様とを比べて、ますます情けない気持ちが高まってくる。
「葉兄ィ、あとで覚えてろよ……!」
「もう忘れましたー」
 嘯きながらも、葉はカガリに背を向けてしゃがみこんだ。
「ほら、おんぶするから」
 葉の手に誘導されるままに、カガリは葉の背中にしがみついた。こうしていると、痛みはたいしたことはない。
「馬鹿兄貴……絶対、後で殴る……」
「わかりました」
 ため息をついた葉の頭に、カガリはコツリと力無くげんこつを振る舞った。

 カガリの部屋に戻ると、まだゲーム機やら攻略本やらベッドの上に居座っていた荷物を退散させて、ゆっくりと横たえられる。
「痛くないか?」
「痛いよ、ばーろー……」
 痛いけれど、葉の背中は不思議な安心感があって、眠たい気持ちもあった。自然と葉との会話のやりとりも力の抜けたものになる。
「悪かった」
「ほんとにそう思ってんのかよ。さっさと逃げたくせに」
「あー、やっぱそう考えるよな」
「違うのかよ」
 カガリの言葉にため息をひとつ挟んで、葉がベッドサイドに座る。
「……真っ暗な中でやみくもにお前を捜すより、少佐か澪あたりに見つけてもらったほうが早いと思って呼びにいったんだ。何しろ、返事がなかったから」
「あー……」
 そう言われると、ベストの選択だと判断したのだろうというのも納得できた。
「悪かった」
「いいよ、わかったから」
 葉が心配してくれていたこと。自分のために奔走してくれたこと。そして何より背中を貸してくれたことに、カガリの怒りはいつしかほぼ氷解していた。
「もういい、眠りたい……」
 目を閉じると、葉がカガリの両脇に腕を入れて抱きかかえられた。
「葉兄ィ?」
「心配した」
「……」
「ほんとに、ごめん」
「ん……」
 葉の包容を受け入れて、カガリはゆっくりと葉の背中に手を廻す。もう怒っていない。まだ少し痛むけど、大丈夫。
 暗闇の中では感じることの無かった誰かの体温。それがとても心地いいから。
 カガリはそのまま目を閉じて、眠りに身を委ねることにした。
                                       <終>

-----
題材[真っ黒な,迷子,落ちる,出ておいで]笑える感じでやってみよう!

 笑える感じにしようとしたのですが、なりませんでした。反省。次はがんばるっ・・・!
 

ぽちっと叱咤激励お待ちしております。

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