■松林 Pinecone■
メールで呼び出された先は神社だった。
「なんでマクドの前とかじゃなくて神社なんだよ」
船から拝借してきた真木の私用車を駐車場に停める。社務所らしきものが見えるが人の気配は一切ない、町中にぽつんと取り残された小さな神社だ。
「寺だったら命の覚悟でもしてたところだけど……さて」
葉は携帯を取り出すともう一度メールの内容を確認した。間違いない、この神社だ。送り主はカガリ。実は昨夜、葉はカガリに不義理を致してしまっていた。
「怒ってんだろうなー……」
昨夜。
葉はカガリやカズラ達とともにパンドラのメンバーの誕生日祝いパーティに参加し、土曜の夜だということもあって、いつもより多めにアルコールを摂取した。
そして昼間のうち約束していたとおりにパーティが終わってカガリを部屋に呼んだ――その時も携帯のメールを使った――訳だが、何もなかった。何、というかナニをするつもりまんまんで呼んでおきながら、二人でベッドにもつれ込んだ直後から記憶がない。
目が覚めると早朝で、昨夜記憶が途切れた時点と同じ方向を向いて同じ服装で目が覚めた。違うのは太陽の光が差し込んでいることとカガリがいないこと。
誘うだけ誘って、寝てしまった。
これは男として非常に恥ずべきで、同時に相手に対して非常に失礼にあたる行為だという自覚はある。
あるが、船じゅうを探し回ってもカガリは行方不明だった。どうやらちょうど葉が起きたあたりで船から降りてしまったらしい。
忸怩たる思いでシャワーを浴びて部屋に戻ると、携帯にメールが届いていた。それはカガリからの呼び出しで。
今、呼び出された場所――昼間の神社――に葉は着いた。
「あー焼き殺されるのは苦しそうだなオイ」
ついに境内に入る。こちらにも人の気配はない。鬱蒼とした松林の中で途方に暮れる。
「とりあえず、本殿に向かうか。つーか本殿って言うの?あってるの?」
ひとまず鳥居をくぐって正面の建物に移動しようとした時――。
視界の隅を光る赤色がよぎった。
「!?」
気のせいではない。足元に落ちたものを見ると、赤ん坊の拳大くらいのものが燃えている。
「カガリか!?」
延焼しないように足で何度も踏みつけると炎が燻り、やがて炎だけが消えて燃えさしが残る。何だか分からないが、質感は木に似ている気がする。
と、また音もなく視界の隅をよぎって炎が飛んでいく。
間違いない、発火能力――カガリだ。
しかし質量を持って飛んでくるものの正体がいまいち掴めず、避けながらも飛んでくる方向を見据えると、木を倒さない程度に出力を調整して衝撃波を発生させた。
「このっ!」
「わあっ!」
衝撃波が音速よりも遅く大気を伝わると、狙った方向より若干左側から人の声が聞こえた。
「カガリ!」
なおも飛んでくる火の玉もどきを避けながら気配を追って松林を分け入っていくと、逃げるつもりのなさそうなカガリがそこにいた。
「見つけた、カガリ」
「……」
カガリは何も言わずぷいっと横を向く。
「怒ってる……よな」
「たりめーだろ」
目線を逸らしたままのカガリの手には松ぼっくりがいくつか握られている。どうやらあれを核にして火の玉を作っていたらしい。
「それにしたって火を使うのは危ないだろ、謝るからさ、もうやめろよ?」
「うるせーよ!」
カガリがキッと睨んでくる。その瞳が潤んでいるように見えるのは気のせいか。
「俺も反省したんだって」
「ふざけんな!あっという間に眠ってたくせに」
「悪かったって」
「嘘くせー。しかもナニのこのこと呼び出されて来てんだよ!」
「カガリが呼んだからだろ」
「にしたって、興味がないなら俺を構うなよ!」
言っていることが支離滅裂である。が、激昂していることは葉にもわかる。
「ホントに反省してるって。っていうか、自分が一番情けない」
「……」
一瞬怯んだ隙を見て腕を取り引き寄せる。カガリは目を大きく見開いたが、すぐに俯いた。
その頭を抱いて素直な気持ちを告げる。
「大体、興味がない奴を部屋に入れるとかしないし、俺」
「……」
「むしろ興味一杯なわけで。わかってもらえると、嬉しいんだけど」
「………」
「昨日の今日じゃ、無理かな」
「……たりめーだろ」
微かな音をたててカガリが握っていた松ぼっくりが地面に落ちていく。その手で葉の背中を抱いた。
「二度とすんなよ」
「誓います」
殊勝な台詞にカガリが吹き出すと、葉もクスクスと笑い出す。二人で笑い合ったところに、葉が口を開いた。
「あーところで、カガリ君」
「?」
「松ぼっくりは燃えやすいよね、よく分かった。んで、松の枯れ枝とか落ち葉とかも燃えやすいんじゃないかな」
「?かもな」
松ヤニ、とか松明、というくらいだからそれはあるかもしれない。
「俺、今後ろを見たくない気分なんだけど、カガリ見てくれる?」
「……」
まさか、という思いで葉の後ろをのぞき見ると。
下草から燃え広がろうとする炎が、カガリの視界に入った。
「ぎゃー!」
慌てて身を離すとなんとか消す方法を考えるが、勢いはそれほど大きくないものの素早い勢いで延焼しつつある。
「どうする、どうする……!?」
「カガリ、俺の力が必要?」
「お願いします!」
精一杯カガリが頭を下げると、葉が炎の方向を向いて一言。
「――消えろ!」
独特のハウリングとともに衝撃波が地面を伝って炎を一斉に吹き消す。
あとには焦げ臭い匂いだけが充満していた。
これは松ぼっくり小火事件としてカガリが葉にその後長らくいじめ続けられることになるのだが――
今はまだ、誰もそれを知らない。
<終>
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お題:「昼の神社」で登場人物が「笑い合う」、「メール」という単語を使ったお話を考えて下さい。
火遊びは怖いよというお話でした。松ぼっくりはよく燃えます。
マクドナルドを何て呼びますか。マクドですかマックですか。私はマックですが、葉ちゃんにはマクドと言わせてみました。今頃ポケモンでわいていることでしょう・・・。
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