■大道具係の憂鬱 promise■
夏の陽は長いといっても、放課後に作業をするためとなると今度はいささか短い。少なくともカガリはそう感じた。
「やってもやっても終わらないな」
「まったくだ。俺、もうペンキの匂い嗅ぐの嫌だ」
東野の言葉にカガリも同意する。大道具係はそう多くないが、教室のあちこちで似たような会話が交わされていることだろう。
放課後に文化祭準備の居残りが許可されて、当初は非日常の予感にワクワクしたものだが、次第に疲れに取って代わられてくる。カガリも東野もそうだった。
会話も自然とげんなりした声になる。
「ペンキ早く塗らないと。当日乾いてない、なんて許されないぞ」
「まぁ女子みたいにフワフワした服の仕立てなんて、俺達には無理だしな、こうなることは分かってたけど……」
「分かってるなら文句言わない」
「へーへー」
東野に諫められてつい口が尖る。それを見ていた東野がクスリと笑った。
「休憩すっか」
「賛成」
手に持っていたベニヤ板を慎重に床に置くと、二人で窓際に移動する。
ガラリと窓を開けると、さわやかな空気が外から入ってきた。
「あーペンキの匂いしない空気って最高」
「だな」
カガリが外を仰ぐと、もう夕日が沈もうとするところだった。夜の教室は開放されていない。じき、生徒の下校を促すアナウンスが流れるだろう。
「そういや、文化祭前日は終電間際まで居残り時間を伸ばすらしいな」
「それは助かるな」
「星、見えるかな」
「なんだよ突然」
いやぁ、と東野が頭をかく。
「昔小学校の時に、屋上に上って天体観測したことあってさ、星がすげー綺麗だったのよ」
「この辺でも星、見えるのか?」
「さてねえ、わかんねー」
都会の空は星が見えないことがある。カガリはそれを言っているのだ。
「じゃあ、予想しようか。俺は見えるほうに賭けるから、カガリは見えないほうに賭けろよ」
「えっ。俺も見えるほうに賭けるぜ?」
「それじゃあ賭けにならないだろ」
「確かにそうだけど、俺だって星見たいし」
んー、と二人で黙り込むと、ふいに笑いがこみあげてくる。
「……見れるといいな」
「だな。文化祭前日か」
「日が暮れたら、屋上に行こうぜ。他の奴に内緒で」
「はは。名案」
なおも二人くすくすと笑っていると、他の大道具係から声がかけられる。
「おい、火野、東野、サボってないで作業しろー」
「やべ。戻るか」
「ちぇ。仕方ねーな」
口々にぼやきながら、素直に作業に戻る。
――文化祭前日は、屋上で星を見よう。
二人ともに、同じ約束を胸に抱きながら。
<終>
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お題:「夜の教室」で登場人物が「予想する」、「星」という単語を使ったお話を考えて下さい。
進展のない二人です。このまま文化祭編終了まで進展のないまま行きそうです。
読み終えたらぽちっとな。