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hyoubutter short story

hyoubutterのショートショートストーリー集
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朝食 breakfast

カガリじゃないといけない葉、を書きたくて・・・結果は読んでみてください・・・・
 



■朝食 breakfast■

 前夜から、カタストロフィ号の中は消沈した雰囲気に満ちている。
 兵部自らと三幹部が乗り込んだアジアの某紛争地帯での任務が失敗に終わったらしい。
 幸いけが人などはないようだったが、四人の神経をすり減らさせるには充分だったらしく、任務失敗の報とともに兵部と三幹部の部屋の周囲は人払いがなされている。
 四人は昨夜は夕食も取っていない。澪、カズラ、パティ、黒巻、そしてカガリが早朝からキッチンで朝食の用意をしていたが、会話もとぎれがちで、カガリなどは入り口付近から遠巻きにただ見ているだけしかやることがなかった。
 スープを火にかける頃合になって、キッチンの扉が開く。
「紅葉ねーさん」
 声を発した黒巻の視線の先、キッチン入り口には紅葉がいた。
「朝食の準備、してくれてたのね。ありがと」
「その……大丈夫?」
 澪がおずおずと紅葉に問うと、紅葉は少し苦い笑いを浮かべる。
「あたしは少し眠ったから平気。これからプールで身体を動かしてくるつもりだけど、できればプールに人を寄せないでもらえると助かるわ」
「わかった」
 カズラが頷くと、紅葉も頷いた。
「食事は?」
「あたしは後でもらうわ。気にしないで」
「えっと……葉兄ィ達はどうしたらいい?」
 どう接したものか――焦れたカガリが質問すると、紅葉は少し困った顔になってとぎれとぎれに言葉を繋ぐ。
「そうね、真木ちゃんはそっとしておいたほうがいいと思う。葉は部屋にいないのよ。どこ行ったかわかんないから、あの子も放っておいてもいいでしょうね。とりあえず、少佐は食事に誘ってくれたほうがいいかもしれないわね。子供達の顔を見てるほうが気が紛れるかも。じゃあ澪――」
「俺が呼びに行く」
「カガリ?」
 周囲の反応も紅葉の問いかけにも構うことなく、カガリは早朝の廊下を兵部の部屋へと早足で向かった。
 

 ノックは三回。兵部に教わったマナーだ。
「どうぞ」
 やや遠くから兵部の声が聞こえる。食事に呼ぶだけならこの場で声を出してもいいのだが、何か逆らえない力によってカガリは兵部の部屋の扉を開ける。
「カガリ?」
 驚いた声を出したのは兵部ではなく、ベッドにいた葉だった。
 大きなサイズのベッドに、兵部が壁際にクッションを置いて背をもたれかけさせており、葉はその手前でうつぶせになりながら入り口のカガリへと振り向いていた。
「あ――その、朝食はどうかって」
 心臓が激しく脈打っていて、言葉が上手く出てこない。精一杯のポーカーフェイスを気取るが、成功していたかどうかは分からない。
「わかった、行くよ。真木には僕から声をかける。葉はどうする?」
「俺は行かねーわ。そう伝えておいて。あと、少佐――助かった、ありがとう」
「全然。気にすることはないよ」
 ベッドから身体を起こす葉の頭を兵部が撫でた。シーツの間から覗くその腕は黒い学生服に包まれている。起き出してきた葉も、シャツにジーンズ姿だったことに心中で胸を撫で下ろす自分の下世話さに、カガリは自己嫌悪に陥る。そのカガリの髪を、ドアまでやって来た葉が、さっき葉自身がされていたようにくしゃりと撫でる。
「じゃね、少佐」
「失礼します、少佐」
 カガリが兵部に挨拶する暇さえ奪われるかのように早急に扉が閉じられる。
「カガリ」
 葉が自分の名前を呼ぶのなんていつものことなのに、カガリの心に緊張が走る。
「悪いけどさ、お前の部屋、行っていい?」
 廊下を歩き出しながらその足はすでにカガリの部屋のほうへと向かっている。
「……」
 イエスと言って良いのか言葉に詰まる。
「な、いいだろ、あとで缶コーヒーおごるから」
「いらねーよ、そんなん」
 背を向けて歩き出した葉の背中を見ているうちに、ああそうか、とカガリは納得する。葉はきっと一人で部屋に戻りたくないのだろう。だからきっと昨夜も――。
「……いいよ」
 返答は、先刻兵部の部屋で見た景色に自分の中で答えが出るより前に、口から滑り出していた。
 

 葉を一人で先に自分の部屋へ行かせて、兵部は朝食に来ると言っていたこと、真木は不明で葉は来ないこと、をキッチンで一気に伝えた後、自分の分の朝食を受け取ると速攻で部屋に向かう。
 道すがら、考える。服なんて、行為が終わってから着換えてしまえばわからないとか。別に自分と葉は将来を誓い合ったわけでもなんでもないから自分が気にする筋合いはないとか。
 そんな、考えているだけで滅入ってしまいそうな思考に頭のてっぺんからつま先まで浸りながら自分の部屋の前に着くと、嫌な思考を吹き飛ばすために大きく一つかぶりを降ってからノックなしでドアを開ける。
 部屋の奥、カガリのベッドの上で葉は横になっていた。嫌でもさっき兵部の部屋で見た景色を思い出す。
 ――ああ嫌だ嫌だ。
「何、人の部屋で勝手にくつろいでんだよ」
 朝食のベーグルサンドとクロワッサンサンド、それにマフィンとオレンジジュースの載ったトレイをテーブルに置くと、葉が顔を上げた。
「うまそーじゃん。俺にもちょーだい」
「……」
 どうせ葉の分も考えて持ってきた量である。が、素直に頷くのはなんだか少し悔しい。
「ちゃんと食えよな。夕べも何も食ってないんだろ?」
 口から出てくるのは憎まれ口だけだ。
「なに、冷たいじゃねーの。もしかして、妬いた?」
 何に妬いたのかは言わなくても分かると思ったのだろう。当然、兵部に、だ。
「……そんな雰囲気じゃないこと位、俺にだってわかる」
 頭では理解している。けれど、二人がともに過ごした一晩で何があったのかという邪推を、カガリの頭は止めてくれない。
 いつもそうだ、善意を受け止めきれず悪意としてねじ曲げてしまう自分の心の幼さが、人との関わりの障害になっていることをカガリは自覚していた。そして自覚しながら制御できないことにいらだちを感じて、ついつっけんどんな物言いになる。
「つうか、アンタと少佐の間に何があっても俺は関係ないし」
「えー?」
 意外なことに、葉がカガリの言葉に不機嫌そうに問い返してきた。
「どういう意味、カガリ?」
 声は低く、青い目は険のある光を投げかけてきている。
「ど……どーもこーもねーだろ、そのまんまだよ」
 そしてまた同じ思考がカガリを包む、昨日なにしてたの、ホントになにもなかったのかよ、ホントにホントかよ!そんなの信じられない。葉を信じ切れない自分を信じられない!だからアンタも信じられない!!
 そんなカガリに対しする葉の機嫌が最高級に悪いことくらい、嫌でも伝わってくる。
 ほら見たことか。信じないからツケが来たんだ。これは当然の罰なのだ。
 カガリは大きくため息をつく。
「……俺が嫌なら、ここ、出てくから。それでいいだろ?」
「駄目」
 その一言でカガリの中で何かがはじけ飛んだ。
「どうしろって言うんだよ。アンタに余裕がないことくらい、俺にだってわかる。でも俺は少佐と違って、アンタの全部を受け止めることなんてできないんだよ!」
 いつもなら嫉妬の欠片でも見せようなら全力でからかってくる葉が、今は冗談に転換させることができない位に切羽詰まっている。そんな葉にどう接すればいいのかなんて、わからなかった。
 沈黙が朝日のさしこみ始めた部屋を包む。
「……傍にいてよ」
 ――それはまるで、子供のような声だった。
 だからカガリははじめ、それが葉の声だなんてわからなかった。
「出て行くなんて言うなよ。――来いよ」
 ベッドの上で葉がカガリを手招きする。
「俺、なんもできねーから。それでいいの?」
「うん、いい」
 了承の言葉を聞いて、カガリはようやく葉の傍に行くと、ベッドに浅く腰をかけた。
「キスしていい?カガリ」
「――そんな気分じゃない」
 背を向けたままそう答えると無理矢理に顔を葉の側へと向けさせられる。
「キスだけ、いいだろ?」
「嫌だってば」
「お願い」
 お願い、の一言に身体が固まってしまう。自分はまだ、誰かの願いに、信頼に応えられる人間だろうか?
「――嘘つけ」
「うん、嘘、になるかもしんない」
 葉の唇が目測を誤ってカガリの唇の端をかすめる。と、ますます強い力で引き寄せられた。 
「逃げるなよ」
「どっちの台詞だよ」
 そしてもう一度、今度こそカガリの唇を葉のそれが捉える頃には、葉の腕はカガリのシャツの裾から内側へと入り込み、同時にカガリの腕が葉のいつもは大きな、今は少しだけ小さく感じる背中をしっかりと抱いていた。
 

                                            <終>
 

-----

お題:「朝の廊下」で登場人物が「髪を撫でる」、「缶コーヒー」という単語を使ったお話を考えて下さい。

最近仕入れた情報によると、ノックって、2回だとトイレノックで、3回が親しい人、4回がビジネス、なんだそうです。(ただビジネスは3回に省略可)
カガリと葉その後。葉は誰でもいいわけではなくちゃんとカガリのこと考えてるんだよって伝えさせようとしたのに、照れ屋の葉さんはそんな台詞口に出してはくれませんでしたとさ。それとカガリが思いの外しっかりしてしまった。もっとあほのこ(褒め言葉)なのがいいのに・・・
缶コーヒーは大使館の自販機にあって、いつか真木の好物と勘違いされたアレです。船内で売ることにしたようですね!
 

いつでもぽちっとな。

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お返事

  • 横山(仮名)@管理人
  • 2010-08-25 20:40
  • edit
>ぱてぃ様
 長旅お疲れ様でした!疲れも取れぬうちに読んでいただけて光栄です!カガリには未熟者でいてほしいものです。(酷)
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