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hyoubutter short story

hyoubutterのショートショートストーリー集
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はじまりの日 begins

葉がカガリを意識しだした最初の日のこと。



■はじまりの日 begins■



 全ては、葉が弟分であるカガリをプールに突き飛ばした所から始まる。
 学校の授業でプールがあるけど泳げない、と聞いて、学校生活をエンジョイしてるらしいカガリへの嫌がらせも含めて「駄目じゃん、俺が教えてやっから!」と思い切りカガリをプールに放り込んで。
 カガリはそのまま自力では上がってこなかったのである。
 体質的に水中にいられないのだということを知ったのはカガリが担架で運ばれて寝込んでしまった後だった。知った、というのは少し間違っていて、葉はじめ一同にかつてミーティングで知らせてあったらしいのだが、葉の記憶になかったというのが正しい。多分、ミーティング中に眠ってでもいたのだろう。
 それも含めて兵部と真木と紅葉とに「本来若い者を守らなければいけない立場にある者にあるまじき行為」とこってりとしぼられ、なんとなく居場所がなくてミュージックプレイヤーを聞きながら甲板でだべっていたが、暑さに負けて船内に戻る。
「アイスか何かねーかなー」
 フリーザーの中身目当てにキッチンへ入ると、真木が立っていた。誰とも顔をあわせたくない気分だった葉はそのままUターンしてしまいたかったが、扉を開けた瞬間に正面から目があってしまったので引き返せない。
「どうした、葉」
「あー、えーと……カガリ、大丈夫?」
 するりと口から出てきた言葉に自分が驚く。その時実は知らぬ間に自分はカガリのことを心配していたらしいことに初めて気付く。
 真木がクスリと笑った気がした。
「容態は安定したらしい。目が覚めてるかもしれないから、これを持っていって、ついでに謝ってこい」
 真木が冷蔵庫からガラスの容器に入ったデザートを二つ出してスプーンとともにトレイの上に置いた。
「何これ」
「杏仁豆腐だ。食欲が無くても何か腹に入れておいたほうがいいと思ってな」
 あいかわらずの真木の主夫ぶりに頭の下がる思いになった葉は、素直にトレイを受け取ってカガリの部屋へと向かった。
「カズラ、いる?カガリでもいいけど」
 カガリの部屋をノックするが、返答はない。試しに扉を開けてみると、遠くのベッドでカガリが一人で寝ているのが見える。
「これ、カガリとカズラのぶんじゃなかったのか」
 てっきりカズラがカガリの看病をしているので、その差し入れだと思っていた杏仁豆腐のひとつは、どうやら葉用だったらしい。テーブルにトレイを置くと、ソファに座ってさっそく自分の分を食べきる。
「さて」
 食べ終わって唇を舐めながらベッドに近寄りカガリを再度見る。血色も良いし呼吸も穏やかで安定しているから大丈夫だろうと思ってはいたが、一応服の襟の中に手を潜らせるようにして体温を測ろうとする。が、熱い場所からやってきて冷たいものを手にしたばかりなせいかうまく測れない。
「どれどれ」
 仕方がないのでカガリの前髪をかきあげて額と額をくっつける。ひやりと少しだけ冷たい感覚がした。
「?大丈夫なのか?」
 もう一度服の前を開けて首に手を当てる。やっぱり冷たい。
「おい、カガリー?」
 起こすべきなのか安静にすべきなのか分からないので小声でカガリを呼ぶが、当然目覚めたりはしない。
 ただ、ひやりとした感覚が手に気持ちよかったので、知らない間に葉の手が動く。
 襟元から、胸元へ、そして首筋をはい上がり、顎を玩んでから頬に手を添え親指を唇に添えて――ハッとした。
 自分は今、何をしていた?
 うっとりとカガリの肌の感触を愉しんでいた、などと。慌てて手を離そうとしたが、何故かそれができない。
 今日知ったカガリの弱点、弱った身体、冷たい唇。気が付くとさっきそうした時と同じように身を沈めて額と額とを合わせる。そのまま目を閉じて、唇を近づけて。
「――いやいやいや、ありえないし!」
 カッと目を見開くと渾身の力で葉は自分の身体をカガリの傍から退けた。
 精一杯の平静さを装いながらカガリの服を正してその場を去る。
 自室に戻ったところでようやく一息ついた。動悸はまだ収まってくれてはいないが。
「いや、マジ、それはねーだろ」
 けれど、と葉は頭を抱えた。今日一日くらいは悶々とした気分を宥めるのに苦労するに違いないと思えたから。


 一方カガリは、扉の閉まる音で目が覚めた。
「……」
 むっくりと上半身を起こす。まだ本調子じゃない。身体が重い、けれどどこか身体が軽いと感じる場所がある。
 無意識に手をそこに当てる。それは胸元から喉、唇まで続くあたりで、ほのかに暖かい気がした。
「?」
 辺りを見回してもただの自分の部屋だ。テーブルの上にトレイが置いてあって、デザートの皿が二つ並んでいる。最も、一つはすでに空になっていた。
「カズラ、は食べたもの片づけないなんてこと、しないよな」
 頭をはっきりさせるために自分の考えを声に出して言ってみる。
 誰かがいたような気配がする。そしてその誰かが、頬を撫でてくれていたような。
「……葉兄ィ?」
 どうしてそう思ったのかはカガリ自身にも分からない。ただなんとなく、この予想は外れていないという確信があった。
 

                                         <終>


-----
お題:キーワード・・・ 42. 服 241. 弱点発見 153. 杏仁豆腐、シチュエーション・・・33. 彼女が冷たい


いつもとは違うジェネレーターでやってみました。「彼女」じゃなくてカガリですが。「冷たい」の意味も違ってますが。
sai様から感想で「どうして葉がカガリを襲う気になったのかが気になる」という感想をいただきましたので、蛇足的ですが時を遡ってみました。

いつも拍手ありがとうございます!とっても嬉しいです。

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