■懐炉 HeatingPad■
とある北国の地方都市で、夜中の歩道を歩く二つの人影がある。
「あー寒ぃー」
「息白いし」
街頭に照らされて二人歩きながら震えてみせる葉の隣で、カガリが白い息を吐く仕草をする。
「冬だなー」
「そうだねカガリ君」
ごそごそと裾の短いダウンジャケットのジッパーを一番上まで閉めながら、葉が上目遣いでカガリを見てくる。いやな予感がする。
「……なんだよ、急に『君』だなんて」
今日は葉のほうが、珍しくいいものが食べたいなどと言い出して、地元では有名な(らしい)レストランに連れていかれた。スーツ服の紳士からジャージ姿の高校生まで幅広く集まるというその店の料理はなるほど確かに美味しかった。それには感謝しているが。
「あのさー、コンビニで何かあったかい飲み物おごってくんねぇ?」
「アンタ俺にたかる気かよ。ご馳走になったし、いいけど」
本当はカガリだって自分の食事代くらいもちたかったが、持ち合わせが足りず全ての支払いを葉に任せてしまった恥ずかしさもあって、素直にイエスと言えず、つい口が悪くなる。
「自宅警備員の悲哀だよ。さっきのレストランで全部使っちった」
「ったく……」
そういうことなら仕方ないだろう。
「まあそう言わないで、暖めてやっから」
「ハァ?」
「そーれ」
と、両脇に腕を煎れられてくすぐられる。
「ちょ、ちょっと、やめ……ひゃはっ!」
「運動すると少しは暖かいだろー?」
「わは、わははっ。アンタのは極端だっつーの!」
カガリが葉を小突いた時、進行方向に丁度コンビニが見つかった。
「よし、コンビニ発見!行くぞカガリ!」
「あ、ちょっ……」
カガリが止める隙もあらばこそ、葉は威勢良くコンビニに駆け込み、反動で大きく音を立てそうになったドアをカガリが間一髪で受け止めると、葉同様に店内へと入る。葉はさっそくホットコーヒーを選んでいる。カガリは温烏龍茶を選ぶと、二人分買う準備のために財布を手に取って、ふとそれに目がいく。
「ねぇ葉兄ィ、こういうのもあるけど」
「何?」
「使い捨てカイロ。ほら」
見ると、ひとつ100円ほどで小さなカイロが売られている。けれど葉は興味なさげに首を横に振ってコーヒーと烏龍茶の缶を指さした。
「一つあればいいだろ」
船までの道中手を温めるものは温かな飲み物が一つあればいい、という発想らしい。
「わかった。じゃ、買ってくるわ」
カガリが支払いを済ませ、コンビニを出るといつの間にか外で待機していた葉が近づいてきた。
「?なに?」
「カガリは、こう」
右側のポケットに烏龍茶を押しこめられる。葉は自分の左側のポケットにコーヒーを煎れると左手を突っ込んだ。
「あったけー」
「これじゃ、かたっぽしか暖かくないじゃん」
やっぱりカイロを買いにいこうかとコンビニを振り返ろうとしたカガリの左手が、葉の右手に掴まれた。握られた、というほうが近いか。
「?」
「もう片方は手を繋ぐ、これで解決」
「なっ、なっ……」
繋いだ手を引っ張るようにして葉が歩き出す。
「……アンタよく臆面もなくこんなことできるな」
とはいえ嫌なら振りほどけばいいのだから、カガリがそうしないという意味は葉にだって伝わっているだろうし。でもやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。
視線のやり場に困って葉の方をチラ見すると、葉の、表情はわからなかったが首筋が赤く染まっているのがわかった。
「……臆面もない、わけじゃないのか……」
「ん?何か言ったか?」
葉に振り返られるとあわてて目線を明後日の方向に向ける。
「照れるなよー」
「照れてない!」
売り言葉に買い言葉で顔を上げると、また葉の首筋に目がいく。やっぱり、いつもより少し赤い。
それを確認すると、何故かつないだ手の暖かさが増したような気がした。
<終>
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お題:「深夜のコンビニ」で登場人物が「くすぐる」、「かいろ」という単語を使ったお話を考えて下さい。
葉とカガリで深夜のコンビニ。ちょっとあまずっぱい二人でした。
お返事