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hyoubutter short story

hyoubutterのショートショートストーリー集
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通り雨 Shower

葉賢木葉。どちらかというと葉賢木?なことが判明したもよう。


■通り雨 Shower■

 車で出勤しなかった日に限って、雨が降ってくる。
 雨が降り出した中を賢木はひた走る。
「ついてねー」
 駅前のコンビニでビニール傘を買ってきてもよかったのだが、なんだかそういう気にならずに道を走って、自宅マンションがそろそろ見えようかという時に、正面に傘をさした人影を見つけた。
「よぉ、ニーさん」
「お前、パンドラの……!」
「あーそんな怖い顔しないで。一緒にイモリの姿焼き食べた仲じゃん?あ、ヤモリかな」
 葉にかつての事件をむしかえされると、賢木もますますかたくなになる。
「なんの用だ」
 二人で近くの店先で雨宿りすると、葉が傘を畳みながら答えた。
「アンタに会いにきたんだけど?」
「俺には用がない」
 そのまま立ち去ろうとした賢木だが、首を絞められるような感触とともにあおむけにつんのめる。
「!?」
 振り返ると、葉が傘を上下逆に持って、取っ手の部分で賢木のシャツの首の裏側をひっかけて制止したのだとわかる。
「お前なぁ!」
「逃げることないじゃん。傘ぐらい貸してあげるから機嫌直してよ」
 逃げる、の一言で賢木の感情は逆撫でされた。
「逃げてなんかねーよ!」
 そして首にかかったままの傘をむしり取ると、曇天の下でビニール傘を開きマンションに向かう。
「ちょっと、相合い傘はー?」
「するか、馬鹿」
「ちぇ。まぁいいけど」
 隣を歩く葉は、傘もないのに、よく見ると雨にまったく濡れていない。そういえば葉はサイコキノベースで超音波を操る能力を持っていたのだから、雨を避ける位は朝飯前なのかもしれない。
 などと思いながらアパートの自室の前に着いて、傘を畳むと賢木は葉に言い放った。
「じゃ。」
 そう言って傘を押しつけて部屋のカギを出そうとしたところで、葉が不満げにうなった。
「ん~、ちょっとそれはないんじゃない?ここは暖かいお茶でも出す流れじゃないかな」
「……上がれ」
 どうせ葉が超能力を使ったならば、スタンガンもESP錠も持っていない今の賢木には何の反撃もできないのだ。賢木は諦めて葉を部屋へと促した。

 本当なら暖かいシャワーでも浴びるところなのだが、招かざるものとはいえ一応は客人が居間に居座っている以上、賢木は服を着換え頭をタオルドライしながら居間に戻ってきた。折しも雨は止み、夕方の陽の光が部屋に注ぎ込む仲葉はソファに横になってくつろぎながらテレビを見ている。
「おい」
 ソファの後ろから腰を折って覗き込む形で軽くげんこつを食らわせると、葉が上向きに見上げてきた。
「痛いだろ。おかえり」
「何くつろいでんだよ」
「そりゃ、お茶を待ってるんだけど?」
「……」
 本当にお茶を要求されるとは思わなかったので賢木は軽く面食らう。そもそもティーセットなどというものは賢木の部屋にはない。
「悪い、茶はない。熱い湯でよければ淹れるけど」
「白湯はいらないなー。かわりにさあ?」
 葉がいたずらっぽく笑うと、賢木の首の後ろに手をまわしてくる。
「イイコトしない?」
 やっぱりか、という言葉を呑み込んで、賢木は無言で葉の接吻を受け入れた。

 いつもよりは時間をかけた交わりを終えて、今度こそ熱いシャワーを浴びて居間に戻ると、葉はまたソファに座って賢木の帰りを待っていた。
「……帰ってるかと思った」
 そんな、と葉は不満そうに頬を膨らませる。
「やることやってさっさと帰るととかひどい奴すぎない?俺がそんな薄情に見える?」
「悪いが、見える」
「ニーさんの中で俺がどんな人間なのか聞きたいところだけど、やめとく」
 それはこっちの台詞だと言いたかったが、そしたらまた話がこじれてしまうのは目に見えていたので抑える。
「ところでさあ、今週末とかヒマ?」
「悪いが先約がある。中学のぶ……」
 文化祭に行く、と言いかけて、はたと気付く。別にそんな情報を目の前の男に伝える義理はない。
「……とにかくお前と遊んでいるヒマはない」
「ちょっと、遊びだったわけ?」
 シナを作ってよよよと泣き崩れる真似をする葉に、ぴしゃりと言い放つ。
「気持ち悪いからやめろ。お前には関係ないことだ」
 ただでさえこっちは床の上で行為に及ばれたわけで腰やら肘やらが痛んで若干機嫌が悪いのだ。
「関係ない、ねぇ……文化祭、来るんだ?」
 もごもごと言葉を紡ぐ葉の声は小さくて、後半部分はまったく聞こえなかった。
「は?」
「ううん、なんでもない。確認できてラッキーってだけの話」
「??」
 目を丸くする賢木の前で、葉は立ち上がって服の乱れを直すと。
「じゃ、今日はこれで帰るわ。また今度、ね」
 となにやら勿体ぶってソファから立ち上がり、「またねー」と玄関先で一言残して、珍客は去っていった。
 やれやれと思いながら部屋のカギを内側から閉めて、もう一度念のためきちんと閉まっているかを確認した後、ようやく一人であることに落ち着きを取り戻す。
 毎度のことだが何をしに来たんだ、と心の中で毒づくと、とある事実に気付いて頭を抱えてしまった。
「……またやっちまった」
 葉が何をしようとしているのか、なんて心を透視めばわかるものを、あれだけ密着しすぎるとかえって忘れてしまう。大体相手は高超度エスパーだから心を閉ざされたら透視しづらいし。いや、それは言い訳に過ぎない。なんだかんだ言いながら自分は性に溺れてしまっているのだ。
 自分に対して溜息をつきながら、葉の帰り際の言葉を思いだす。
『また今度、ね』
「また、か」
『またねー』
 あの口ぶりから察するにどうやら次があるらしい。
 いつものように窓から忍んでくるのか、今日みたいに外で会うのかは分からないが、次に出会った時こそ心を透視んでやると賢木は頭をあげながら決意する。
 ほんの数日後に、ザ・チルドレン達の通う中学の文化祭で出会うとも知らず。
                                           <終>

-----
お題:「夕方の床の上」で登場人物が「逃げる」、「傘」という単語を使ったお話を考えて下さい。

 文化祭の前日譚です。
 賢木と葉は敵対心剥き出しなのにそこが気が合ってしまうのが腹立たしい、みたいな関係で見ていてすごく面白いです。
 

ご意見ご感想参考になります。

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