■不満な唇 Second kiss■
珍しく勉強机に向かっていると、ドアをノックする音がした。日曜の昼下がり、こんな時間に誰だろうと首だけ振り向くと、名を呼ばれた。
「カーガーリー君ー」
「カガリはいません!」
「つれねーなぁ」
カチリとシリンダー鍵が開く音がして、次いでドアを開けて葉が入ってくる。
「ちょっ、プライバシー侵害!振動波で鍵開けるとかナシ!」
ヘッドホンを外しながら慌てて立ち上がって部屋の入り口に駆け寄るが、両腕をポケットに突っ込んだままの姿で葉がカガリの部屋へとずいすいと入りこんでくる。
「出てけ!」
「なにを隠してるのかな~?」
「なんも隠してねーよ!……ったく、葉兄ィは自分の基準で他人を測るのやめたほうがいいぜ」
まくし立てている間になんだか馬鹿らしくなってしまい、最後の方は怒りを通り越して呆れの口調になってしまう。
「ふーん」
じろじろと部屋の中を眺めた後に、ようやく気が済んだのかベッドへと腰を落ち着けてくれた。安心して自分も勉強机の椅子に座ると、机の上のCDを片づけ始めた時に葉から声がかかる。
「CD聞いてたの?」
「……そう」
あまり指摘されたくはなかった。机の上にはヘッドホンとCDのケース及び歌詞カードが置いてあるのだから、一目でわかられただろうが、なんというか、ラブソングの歌詞にひたりながら聞いていたなんて恥ずかしくて言えない。
「買ったの?」
「借りたの」
「誰から」
「クラスの奴からだよ……って何してんだよ」
ベッドから立ち上がった葉が椅子の背もたれごしにカガリに後ろから抱きついて、肩に顎を載せながら両腕でさわさわとカガリのシャツの胸を触ってくる。
「カガリ君がかまってくれなくて寂しいの」
「やめろよ暑苦しい」
どうせ暇を持てあましてカガリの部屋にまでやって来たに違いないのだ。
案の定葉は不満そうに鼻を鳴らすと、今度はカガリのシャツをたくし上げ始める。
「ちょっと、葉ニィ――…ン!」
抗議の声はキスに塞がれる。途端にたまらない気持ちになって葉をふりほどくと、カガリは椅子から立ち上がった。葉は拒否されると思っていなかったのか、目を丸く見開いて立ちすくんでいる。
「……俺、あんたのキス嫌いだ」
「……」
しばらく沈黙していた葉だったが、少しだけうつむくと、またベッドへと腰掛ける。
「……なんで?」
「決まってるだろ!?」
上目遣いに質問してくる顔には驚きや疑問といった色はあるが、自省の色はない。やっぱり気付いてなかったらしい。
怒りに任せてベッドの上に膝をかけると、葉の肩を掴んで壁へと押し付ける。
「葉兄ィが俺にキスしてくるのは、ヤりたい時だけなんだよ!」
まだ身体を重ねた回数は数えるほどしかないが、今まで葉がキスしてきた後に、そのままセックスにもつれ込まなかった例はない。それがカガリにはどうしようもなく嫌だった。
その時初めて葉が戸惑った表情を浮かべた。
「……カガリ」
どうせ少女趣味だの何だのと言って笑う気なのだろう。けれどカガリはずっとわだかまっていた事を告げる機会が訪れたことに感謝していた。だから、あとはどうなろうと構わない。
「――じゃあ俺もカガリに不満、言っていい?」
「なんだよ」
「キスして、カガリ」
葉の言葉の意味は、不満というにはあまりに端的すぎて訳が分からなかった。けれど正面から顔を見据えても、冗談を言っているようにも見えなかった。
「カガリから俺にキスしてよ。今までセックス以外では一度もしてもらったことないんだけど?」
「それは……」
確かに、言われてみればその通りだった。セックスの最中や終わってからは何度かした気もするが、自分から、と限定された場合してないと言われればしてなかったかもしれない。
「そしたら俺も反省して、もっとちゃんと考えっから」
「……わかった」
カガリが頷くと、葉が目を閉じる。
もっと恥ずかしいことを何度もしてるはずなのに、今更キス一つでビクつくなんて――思いながらも、今更になって自分の鼓動が早くなっていることに気付いてしまったり。
――情けない。
カガリは軽く頭を振ると、葉の唇に自分のそれをそっと近づけた。何故か臆病に、震えながら。
<終>
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いつものジェネレーターではなく、キス題のジェネレーターをやってみたら、とってもカガ葉カガだったのでこうなりました。
お題:yokoyama_kariさんにオススメのキス題。シチュ:ベッドの上、表情:「戸惑った表情」、ポイント:「壁に押し付ける」、「自分からしようと頑張っている姿」です。
という感じだったのでした。ご満足いただけたなら幸いです。
読み終わったらぽちっとね。
お返事