■ヒトリノ日曜日 lonely sunday■
それは日曜の朝。
一緒にゲームしようと言っていた相手が、時間になっても来ない。
まぁ葉は朝の遅い人間だから、こんなこともあるだろう。ただ、朝食の時にいつもは早い真木の姿がないことが気になっていた。
(……なんでだろ)
カガリは一人でゲームを始めたが、集中力が足りずすぐに飽きてしまう。携帯でメールしようかとも思ったが、寝ているのだとしたら着信にもきっと気付かないだろう。
「ええい、このままじゃだめだ」
自分に活を入れてカガリは葉の部屋へ向かったが、ノックしても出ず、ノブを回すと容易くドアは開いた。
「……葉兄ィ?」
部屋は無人だった。念のためシャワールームもあらためたが、そこにも葉の姿はなかった。
葉の部屋を出て、カガリはリビングに向かう。その途中でマッスルと行き合った。
「おハヨウ」
「おはよー……あのさ、葉兄ィ、知らない?」
「葉なら、今朝早く真木ちゃんが引っ張って行ったわヨ。なんでも、急な任務が入ったとかで」
「あ、そうなんだ……」
――それならそうと、メールの一つでもよこせばいいものを。もっとも、パンドラの任務は神出鬼没だから、携帯の電波の入る場所にいるとは限らない。
「何処に行ったか知ってる?」
「ポーランドじゃないかしら」
「ポーランド、ね……」
それじゃあ、時差もあるだろうし携帯に連絡ないのもしかたないかもしれない。
カガリは諦めて、部屋へと戻った。
昼食を終えて、一気に暇になった。
いつ葉が戻ってくるかと思うとどこかに行こうとかそういう気にはなれないし、かといって一人でゲームばかりしているのも無理がある。船は雲の上にいるから、町に繰り出すのもなんとなく面倒くさい。
オーディオルームという名の畳の部屋でこたつに入りながら一度見た洋画を見て、途中で眠ってしまい、また夕方から見直してはうつらうつらと眠る。そんなことをどれだけ繰り返してただろうか。
夕食の席には葉の姿も真木の姿もなく、すっかり今日の定位置と貸したオーディオルームのこたつで底の浅い眠りを貪っていると、ふと目が覚めたら夜の八時だった。もう部屋に戻ったほうがいいのかと思いながらも、カガリはまた眠りに落ちた。
夢は見なかった。
ただ、目覚めは強烈だった。
突然ガツンと頭に衝撃が走り、目の前がちかちかと明滅する。
「~ってぇ~~!」
「カガリ!」
頭に何かをぶつけられたらしく、激痛を感じる部分を両手で押さえて起きあがる。下半身はまだこたつの中だ。
「おい、大丈夫か?」
心配そうに覗き込んできたのは――葉だった。
「葉兄ィ……」
何故、葉が。というか、この激痛はなんだ。
「悪い、お前が寝てるってわかんなくて、ドアを思いっきり開けたらヒットしちまったんだ」
「あー、ごめん、それは俺の寝方が悪かった……てて」
頭をさするとまだ痛みがある。こぶになるかもしれない。そんなことより。
「葉兄ィ、帰ったの?」
「うん、今しがた、真木さんとな」
「真木さんと……」
何故だろう、頭だけでなく胸のあたりもちくりと痛んだ。
「急な仕事だって引っ張り出されちまってさ。お前に出かけるって言えなかった。悪かった」
「いいよ、大した約束じゃないし……それより」
「?」
「真木さんと、二人だったの?任務って」
葉がぱちくりと目を見開く。と、その唇の両端をつり上げた。
「なーに、嫉妬?」
「……!」
咄嗟に否定しようとして、何故か言葉がつまってしまった。葉はにっこりと笑う。
「心配しなくても、ひたすら任務だったよ。嬉しいなー、ヤキモチかー」
「ちっ、違うっ、そんなんじゃ……ないと……思う」
ただ、自分より真木を選ばれたような気がして。そんなことはないと頭ではわかっていても、一日ひたすら転がって悶々としていると、よくない考えに思考が向かってしまうのはよくある話で。
と、葉がカガリの頭を、ぶつけた部分を巧妙によけて両手で挟むと、カガリの額にキスをした。
「……ほんとにごめん。今度、うめあわせするから」
至近距離で瞳を覗き込まれる。蒼い瞳に吸い込まれそうになる。
「埋め合わせは、今度、なの?」
自分でも思っても見ない言葉がするりと口から飛び出した。
「いや、今でもいいよ。今にすっか!」
葉が威勢良く請け負うので、カガリは思わず笑ってしまう。
「そうだな、もうみんな寝たろうし」
「って、ここで?」
葉はカガリの言葉に怯むことなく、大きく頷いた。
「うん」
「あーでも俺、明日学校なんだけど、どうしよっかなー」
時計はもう深夜を回っている。葉だって疲れているはずだ。なのに。
そんなカガリの言葉を無視して、葉がカガリの唇に自分のそれを重ねてきた。
啄むだけのキスは優しくて、つい、ずるい、と思ってしまう。
「葉兄ィはずるいな」
「なんでだよ」
葉がぷっと笑い出す。カガリも一緒になって笑いながら、葉の背中に腕を回してその身体を抱きしめた。
<終>
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お題:yokoyama_kariさんは、「深夜の畳の上」で登場人物が「嫉妬する」、「雲」という単語を使ったお話を考えて下さい。
嫉妬する相手を真木さんにするか兵部さんにするかで迷いました。ただ、少佐だと人の手なんか借りずに全部やっちゃいそうだったんで、今回は真木さんに出てきていただきました。
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