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hyoubutterのショートショートストーリー集
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右耳ピアス pierce

マッスルのお話。

■右耳ピアス pierce■

 カタストロフィ号の大浴場は時間交代制である。
 今日は女性・男性・マッスルの順だった。
 乾いた髪を無意識に弄りながら葉が大浴場の前を通りがかった時――
「アタシの、空色の宝石がっ!」
 マッスルの悲痛な叫び声が聞こえた。
 何事かとコレミツを連れて大浴場に突入しようとした矢先、レザーパンツに上半身裸のマッスルが脱衣所から現れた。
「大変、アタシったら、宝石を落としちゃったみたい」
 その顔は真っ青だった。
『高価なものなのか』
「値段じゃなくって、思い入れの問題ヨ!大事にしてたのに、落とすなんてアタシのバカバカ……!!」
 そんなことを言い合っている間に、なんだなんだと男性陣が集まってくる。口を開いたのは真木だった。
「何があったか、順序だって話せ、マッスル。ことによっては協力するから」
「俺も!」
 真木とカガリの言葉に、マッスルは感じ入ったように目を擦る。
「ありがとう。あのね、アタシ、ピアスをお風呂で落としちゃったみたいなの。もしかして、もう下水管に流れてっちゃったかも……」
「それはどんな形状のものだ」
「ブルーダイヤがついてる、右耳用のピアスよ。石はそんなに大きくないわ」
「右耳……って、ゲイ用か」
 葉の解説に、カガリがなるほどと頷く。
「で、気が付いたらなくなっていた、と」
「そうなの。どうしましょう」
「探すしかあるまい」
「ありがとう真木ちゃん!」
 マッスルは飛び上がって喜ぶ。
「もう真木ちゃんたら、惚れちゃいそう!」
「……やめていいか?」
「いやん、真木ちゃんのいけずぅ」
「ま、探すとしますか」
 葉がカガリの肩を叩いて脱衣所へと入っていく。
「少佐に出てきてサイコメトリして貰うのは、俺達が探してからでもいいだろう」
 真木の言葉に、一同は頷いた。
 そしてめいめい脱衣所でシャツとパンツだけの姿になると、這い蹲って宝石を探す。少し間抜けな風景だが、仕方ない。
『しかし、汗だくになるな』
「湿気が高いからね……アタシ、タオル持ってくるわ」
 コレミツの言葉を受けて、マッスルは一度脱衣所でレザーパンツをはき直すと、リネン室へとタオルを取りに向かった。その途中。
「……ん?」
 ランドリーの机の上に、きらりと光るものがある。
 歩み寄って確かめると、それはマッスルのなくしたはずのピアスだった。
「あー!」
 そういえば。
 昨日の入浴後、タオルを洗濯しようとして耳のピアスに引っかけてしまい、あやうく落としそうになったのであわてて外して――そのまま机の上に置いたのだった。
「こんな所に……!」
 見つかったのは素直に嬉しい。が。さてどうしよう。素直に自分の思いこみだったと告げるべきか、それともこのまま放っておくか。
 後者の方が楽しそうな気がして、マッスルは一瞬人の悪い笑みを浮かべたが、すぐに思い直してピアスを握ると浴室へと賭けだしていった。

                                   <終>

-----
題材[空色の,宝石,流す,思い込み]

嫌いじゃないです、男性のピアス。

いつもありがとうございます。

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