■ハッピーハロウィン Happy Halloween■
海辺にパラソルを立て終えて、額を拭うとじっとりと汗をかいていた。
「こないだまで北極海かと思えば今度は南の島かよ。気候の変動激しすぎるぜ」
東京は夏で暑いからと、兵部の方針で北極海に停船していたカタストロフィ号が進路を南に取ったのは数日前。今度は南の島に到着していた。休日だからと昼食がてら買い物に出かけた女性陣とは逆に、カガリはプライベートビーチに自分がくつろぐスペースを取ろうと敷物を敷いたりパラソルを設置したりと余念がなかった。
なにしろ文化祭は大変だった。望まぬ女装を強いられてみたり。思い出すだけでもあの時のヤブ医者と葉の目線がカガリの羞恥心を苛む。
「だあー!もう!!」
「何を吠えてるんだ、カガリ?」
後ろから声をかけられてびくりと反応してしまう。カガリに声をかけた主はそこに立っていた。
「……葉兄ィ」
何が楽しいのか、手には手の平大もある取っ手の着いた飴を舐めながら近づいてくる。
「ちょっと嫌なこと思い出したっていうか……」
「ふうん」
特に興味もなさげに敷物に座るとパラソルの影に隠れる葉。
「ちょっ、特等席取るなよ」
「ならお前も座ればいいじゃん」
「……」
これ以上何を言っても無駄な気がしてカガリは葉の脇に座る。あまり大きくないパラソルなので二人が寄り添うような形になって暑苦しいことこの上ないが、葉への意趣返しも含めているからこれでいいのだ。
「お前もいる?」
葉がどこからかもう一つ、フィルムで包装されたペロペロキャンディを取り出してカガリにすすめてくる。
「いらねー。この炎天下でよく溶けないな。つかどこに持ってたの」
「いや、ハロウィンの時配ってたんだけど、お前いなかったから忘れてた。はい、ハッピーハロウィン」
「ますますいらねーよ。てかいつの話だよハロウィンって……」
その日はハロウィンパーティがあるのは知っていたが、カガリは級友との約束で出かけていたために不在だったのだ。
寄り添うように並び座っていたカガリの胸元に、葉が額を押しつけるようにして甘えてくる。飴は敷物の端のほうによせられていた。
「なんだよ」
「お菓子あげないから、イタズラして?」
「――っ」
上目遣いにそう言われて、心臓が跳ねる。
葉の目線が熱っぽく見えるのは、気のせいだろうか。少なくとも自分の胸の高鳴りと頬の熱さは本物だ。
「……どこの殺し文句だよ。あーもー!」
葉の頬に手を当て、自分の顔のほうへと誘う。葉はまだ目を見開いたままだ。構わずに唇に自分の唇を押し当てるが、葉はまだ目を閉じようとしない。唇を離して疑問をぶつけてみた。
「なんで、目閉じないの」
「カガリこそ」
言われてみれば葉が目を閉じていなかったと知っているのは自分も目を開けていたからで。
「じゃ、俺が先に目を閉じるから、葉兄ィも閉じて」
「わかった」
瞼を下ろして、もう一度その唇に口づける。
瞳を閉じてのキスは、さっきのそれよりも、葉の唇の甘さを一段と際だたせるように匂った。
甘いものは得意じゃないけれど、葉のそれなら何故かかぐわしいと感じるのが、とても不思議だった。
<終>
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お題:「昼の海辺」で登場人物が「寄り添う」、「飴」という単語を使ったお話を考えて下さい。
あいかわらずあまずっぱい二人です。殺し文句のところは、ネットで見かけた話を元にしています。元ネタを見つけたひとはなま暖かい目で見守って下さると幸いです。
いつもぽちぽちありがとうございます!
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