■プライベートビーチ private beach■
ドアを開けてコテージの中に入ったとたんに違和感に襲われる。
理由はすぐにわかった。人の気配がしないのだ。
「少佐?」
名を呼びながら食料品の入った紙袋をキッチンに置いて、再度バンガローの中をあらためるが、誰一人として人影はない。
「買い物に行ってる間にビーチに出たか?」
まだ日は高い。南海の孤島の昼間だ、夏季ではないとはいえ直射日光はいっそ身体に悪い。小さな心配を胸に抱きながらプライベートビーチに歩いて行くと、日傘の陰で横たわる兵部の姿があった。半袖シャツと水着姿で、非常にリラックスしているように見える。
「真木」
兵部が真木の姿を認めて身体を起こす。
「いいですよ、横になったままで」
「ううん、喉が渇いた」
「水でしたら、ここに」
どうせ兵部のことだから水分補給のことなど考えていないだろうと持ってきた水筒を渡すと、にっこりと笑う。
「ありがとう」
「いえ」
……こんな何気ない一言に胸が軽くなる。笑顔に喜びを感じる。
「どうしたの、真木」
問いに対する答えはなかった。かわりに、兵部の両頬を掌で包むと、額と額をくっつけた。
「……真木?」
「また、いなくなったのかもしれないと思いました」
「まさか。葉に言って出てきたんだよ?」
「葉ならいませんでしたが」
人の集まるところが好きな性分の葉のことだ、どうせ観光客の行くようなところに遊びに出かけているに違いない。
「ちゃんと留守番を言いつけてきたんだけどなぁ」
「あの……鳥頭」
戻ってきたらきっちりと話をしないといけないだろう。でも今は。
「キス、していいですか」
「いいよ」
唇に唇を重ね、啄むように軽く兵部を味わう。
触れ合うだけのキスは、なんだかくすぐったい。
顔を離すと、兵部はきょとんとした顔をしていた。
「フレンチキス、だけ?」
「たまには。不満でも?」
うーん、と兵部は少し考え込む風だったが、真木がそうしているように真木の両頬を掌で包んで、ぺろりとその唇を舐めた。
「少佐?」
今のは何を意味しているのだろうか。
「なんかね、愛し合いたい気分」
「ここで、ですか」
「駄目かい?」
昼間っから、とか、誰かが来たらどうするのか、とか色々あるが、とりあえず今はこのプライベートビーチには二人しかいない。誰かが来たとしてもすぐに気付くだろう。
「いいえ」
兵部の両脇に手を伸ばし、引き上げるようにして兵部を自分の太股の上に跨らせる。
腰からシャツの内側へと手を滑り込ませると、兵部は愉しそうにもう一度、真木の唇を舐めた。
<終>
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お題:「昼の海辺」で登場人物が「愛し合う」、「鳥」という単語を使ったお話を考えて下さい。
説明をするとですね、パンドラは南海の孤島にプライベートビーチを持ってて、コテージはそれに隣接してる、という新刊で使った設定です。(だがしかしその新刊は葉兵な罠。)
拍手ありがとうございます!