■シューティングゲーム shooting game■
昼間の公園を散歩するなんて久しぶりすぎて、太陽が眩しい。眩しすぎて、木陰のベンチに横たわってみた。
「葉兄ィー」
カガリの呼ぶ声が聞こえて、葉はベンチから体を起こす。
「ひとに買いに行かせて、何寝そべってんのさ。ほら、どっちか選んで」
カガリの買ってきた二本のペットボトルのうちコーラを選ぶと、残りのスポーツドリンクの蓋をカガリが開けて早速口をつける。
「っはー、生き返るー」
「カガリ、ジジくせぇ」
「うるさいな、暑いんだからしょーがねーだろ」
少しからかうとすぐにカッとなって葉を睨み付けてくる。この弟分と兄弟の関係を踏み越えてからまだ僅か。
もともと互いに年の近い同性がいなかったから仲は悪くなかったが、その分今のほうがかつてより距離感が測りにくい。
それはカガリも同様らしく、たまにはデートらしいことでも、と休日に誘ってみたりしたものの、カガリは最近学校の友人との用事を優先するようになってきた。こんな風に休日に二人で過ごすのは本当に珍しい。とはいえ。
「今日、これからどーする?」
「特になんもないけど」
そうなのだ。
学校のある時間以外はその気になれば四六時中顔をつきあわせていることが可能な為、今更感のほうが強い。つまる所、特段やることがないのだ。
ふと葉は思いついて、カガリに聞いてみる。
「学校の奴らと遊びに行く時はどこ行ってんの」
「んー、そうだな、ゲーセンとかが多いけど」
「よっし、じゃあゲーセン行くべ」
考えるより先に体が動いて、気付くとカガリの腕を取って歩き出していた。
「カガリ、ここのゲーセンははじめて?」
「うん、来たことないけど」
カガリの言葉に不思議と機嫌の上向いた葉は、ふと目に付いたシューティングゲームの台に座る。コインを入れてゲームスタートすると、ビデオゲームのヴィジュアルが華麗に動き出す。
「葉兄ィ、これやったことあるの?」
「いや。はじめてだけど」
「そっか」
心なしか、カガリも嬉しそうに見えるのは何故だろう。
しばらくゲームに熱中することにした葉だったが、横合いからカガリが口を出してきた。
「そういや、俺しばらく土日出歩けないかも」
「へー。なんで?」
「文化祭があるんだよ、その準備で、土日も作業しに行かないと」
そういえばパティたちがそんな事を言っていたっけ。
「平日も居残りだし」
そこで敵弾がヒットして残機が2に減ってしまう。
「えー、つまんねー」
「?なんで?」
装備が一から取り直しになるので、この先はなかなか苦しい。アイテムを取ることをメインに考えて攻略していくが。
「お前、今日このあと俺の部屋な」
「とっ、突然なんだよ」
「嫌か?」
ここでまた敵の弾に当たってしまう。残機1。
「葉兄ィはいつも唐突なんだよ」
「不満かよ」
「そりゃ不満に決まってんだろ!」
復活を果たしたのに、またつまらない流れ弾にヒットしてしまい、ついに残機0になる。
「――葉兄ィ?」
興がそがれてすっかりやる気がなくなったため、まだゲームは続いているが葉は立ち上がってカガリの腕を掴んだ。
「ちょ、っと――」
カガリの二の腕を引っ張るようにトイレに連れ込むと、掌を握りこむようにして反対の手も掴みあげ、壁に押しつけてその唇を奪う。
「ん――……」
人が来る気配はない。見られたら別にそれはそれで気にしない。なのにカガリは周りが気になってそれどころではないらしい、必死でもがいて葉の唇を振り払う。
「何すんだよ!」
「突然で何が不満なんだよ」
「だから!」
カガリは一度言葉を切ると、目線を下に向けて言った。
「どうせ、またするんだろ」
「と、思うけど、何、したくないの」
自分でも驚くほど低い声が出た。が、自分が何故苛ついているのかが分からない。自分のことなのに。
「今すぐしなくたって……せっかく天気もいいし、二人で外で過ごしてるのにさ、楽しいとか思ってた俺が馬鹿みたいじゃん」
忌々しげに呟くとカガリは口をつぐむ。
「――馬鹿みたいじゃねーよ」
二の腕の束縛を解き、まだ不満そうな頬に手を添えて、カガリの唇に再度自分のそれを押しつけた。今度は優しく、ゆっくりと。
「……葉兄ィ?」
「悪かった。俺も楽しい。うん、そう、ゲーセン来たばっかの所までは楽しいなって思ってたんだけど」
これ以上口にするのは照れる。が、カガリの心を解く術が他に見つからない。
「俺以外とも同じように過ごしてるのかなって思ったら、なんか、対抗してやらないとって気になっちまった」
心のうちを暴露しておそるおそるカガリの顔を見ると、カガリはポカンと口を開けて葉を見つめている。そんなに変なことを言ったろうか。
「対抗って……」
そこでカガリが吹き出した。
「つまり、俺が学校がらみで拘束されるのが嫌だったの?」
「独占したいって思うのは駄目かよ?」
「……駄目じゃない、よ」
カガリは少し口ごもったと思うと沈黙する。その頬が少し紅くなっているのがわかったが、あえて口にはしない。きっと自分も同じような顔をしているだろうから。
「……悪かった」
「別に……」
「だって、俺――」
「ほんと、そんな気にしてないから!」
カガリの顔が近づいて来たかと思うと、葉の唇に触れるだけのキスを施してまたすぐに離れる。
「……だから、今日は楽しもうぜ。来週から無理なんだから」
「ん。そうする」
どちらからともなく視線を合わせて互いの顔を見ていると、いつしか二人の間にクスクスと密やかな笑いが起きる。
「一緒に居られないのが嫌だからって拗ねてさ、ガキかよ葉兄ィは」
「お前はそうは思わないわけ?」
「思ってるよ……思ってる」
目があって、また二人で笑う。
「この後どうする?すぐに戻ってする?――のは、嫌なんだよな」
「遊んでからにしようぜ。ゲームして、ボーリングにでも行ってさ」
「いいな」
「だろ」
カガリの背を壁にもたれさせて、ともに目を見合わせて笑いあった。
互いの手と手を握ったままで。
<終>
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お題:「昼の公園」で登場人物が「選ぶ」、「ペットボトル」という単語を使ったお話を考えて下さい。
お題が冒頭しか触れてないとか言っちゃ嫌。
この二人を書く時は比較的ライトな気持ちでいる場合が多いんですが、今回は気恥ずかしいです。ちなみに真木兵部を書く時はメロウな気持ちになることが多いです。
読み終わったらポチっとな。
お返事