■神社 shrine■
公園の脇に子供達が通る小さな獣道があり、それは隣の神社の社務所の裏に続いているようだった。三人は手にそれぞれ懐中電灯を持ってその道を歩いていく。
「本当にこっちなのかい？」
兵部の質問に、真木と紅葉の二人ともが首を横に振る。
「わからないわ。でも公園は全部探したし、時間だから帰るよってあちこちで呼んでも来ないし……」
「まったく、公園の敷地からは出るなって言ったのに……葉ー！」
先頭を歩く真木はこの道の存在自体を知らなかったらしく、身体の大きい真木はあちこちで木に袖を引っかけたり背の高い草に転びそうになったりしながらそれでも葉の名を呼び続ける。
「ここまでが公園でここからが神社、ってあまりわかってない感じなのよねあの子」
最後尾の紅葉も心配と不満を八割と二割の割合で混ぜた声音で葉を呼ぶ。兵部が留守の間に公園でかくれんぼしていたら、日が暮れても葉が見つからないというのだ。（真木は真っ先に見つかったらしい）
「これ以上暗くなる前に見つけないと」
「多少暗くなっても大丈夫だよ。葉だってただの子供じゃないし、それにもう――」
真木と紅葉にはまだ伝えていないが、兵部は葉の思念派を既にキャッチして、葉のいる大体の場所は把握していた。ただ二人があまりに大あわてで葉を探してくれと兵部に交代で詰め寄るために、言い出すきっかけを失ってしまっていたのだ。
「大丈夫じゃないわ！」
紅葉が大げさな位のリアクションで自分の肩を抱く。小さな手は細かく震えていた。
「だってここ、“出る”って噂なのよ！」
「え？」
何を言い出すかと思ったら、どうやら魑魅魍魎、幽霊亡霊のたぐいの話らしい。兵部にとっては夏の夜を涼しく彩る愉快な迷信に過ぎないが、紅葉はあくまで真剣なようだ。
「ひょっとして紅葉、幽霊が怖いの？」
「こっ、怖くないわよっ！でも葉が幽霊にさらわれちゃったら大変じゃない！」
そう言いながら兵部の脇に回り込んで学生服の裾を手で掴んでくる。
「早く探しに行きましょ…？」
「はいはい」
確かに鬱蒼としていてそういった話には事欠かなそうな神社ではある。つい最近から『宇津見先生』に勉強を教わるようになったばかりのはずの紅葉が怯えるのは一見奇妙に思えるが、この場所の――雑草の生い茂った昼なお暗い林の中の、寂れた神社というロケーションが悪いのかもしれない。
「おーい、葉ー、聞こえたら返事しろー」
葉の名を呼ぶ先頭の真木もまた、幽霊を怖がる年齢は過ぎていて、紅葉には分からないように肩を震わせて笑いを堪えている。
会話の間にも兵部の能力で探査した結果、葉の居場所とその安全はもう正確に分かっていた。社の裏の物置に板の外れた場所があり、そこから壊れた衣装箱のある場所まで這い進んで、今は箱から引きずり出した古着にくるまってすっかりリラックスしている。物置には危険なものもないようだし、再会するまでの間もきっと一人で遊びほうけていることだろう。ひょっとして暗がりから飛び出して紅葉あたりを驚かせるのかもしれない。あの幼い小悪魔がそこまで考えているかどうかは不明だが。
「この道、どこまで続いてるのかしら……」
「俺もこの道には入って来たことないからわかんねーんだよな、ああくそ、葉ーっ！」
けれど今は、先頭を歩く長男の背伸びした背中が、そして学生服の裾を掴む小さな手の感触がともに愛おしくて、この探検をもう少し楽しんでいたい気分だった。
＜終＞
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お題：「夜の神社」で登場人物が「再会する」、「噂」という単語を使ったお話を考えて下さい。
古い着物を羽織った葉が宙に浮きながら夜中の境内をさまよって紅葉が気絶ＥＮＤまっしぐらです。オチが「落雷」とかぶるので書くのは断念しました。決して時間がなかったわけではっ・・・！
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