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hyoubutter short story

hyoubutterのショートショートストーリー集
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足音 Catnap

どエロを目指したはずの真木兵部。


■足音 Catnap■

 テレビの音がうるさい。けれどリモコンに手を伸ばすことすらおっくうで、うるさいと思いながらもリビングのテレビのおしゃべりをBGMに瞼を閉じてソファで昼寝の体勢に入る。
 すぐにでも寝付くかと思ったが眠気は浅く身体の表面を覆うばかりで、頭は相変わらず活動している。今がまだ昼寝には早すぎる午前九時であること、平日であること、今ここのアジトには煩型がいること。見つかって煩わされるのは不本意だが、だからといってテレビを消すのもテレポートで部屋に戻るのも面倒だった。手足だけが鉛のように重く、一足先に眠りの世界に浸かってしまったような怠さ。
 どうせ、遅い朝食の時間になったら起こされる。それまでには起きていたい気持ちと、いざ寝過ごしても起こしてもらえるという嬉しくも煩わしくもある幸せ、つまりは沢山の矛盾に兵部の身体は包まれていた。そしてそれらすべてを振り払うために眠りの世界へと入る努力をまさに今しているところだった。
 どのくらいそうしていたのかはわからない。もしかして本当に寝ていたのかもしれない。狂った時間感覚を戻す為に目を開けて時計を見るという選択肢を選ぶ直前に、部屋の外から誰かの足音が聞こえた。部屋を通り過ぎたなら兵部はまた眠りの世界に入っただろうが、その人物はリビングの扉を開けて中に入ってきた。
「……少佐。お休みですか?」
 煩型が来た。――真木だ。扉を閉める気配を感じながら、兵部は意識の半分を眠りの泉に沈めたまま寝返りを打つ。
「起きて下さい、風邪をひきますよ」
 テレビの主電源を切った真木がすぐ近くに来た気配を感じたが、それでもまだ瞼も身体もひどく重い。
「……ん」
 うるさい、どこか行けという気持ちと、そう言ってもこの男は自分から離れないであろうという安心感がある。小さくてけれど無数の矛盾を片っ端から消しながら人というものは海から突き出た氷塊の上の部分だけを見せて生きているのだろう。
 真木には矛盾はないのだろうか。そう思った時、真木の両手の掌が兵部のそれをぎゅっと握り、そのままソファに押しつけられる。
「――?」
 目を開けるより前に、兵部の唇を何かが塞ぐ。慣れた感触だった。真木の、唇の感触。弾力のあるそれを割って濡れた舌が侵入してくる。
 熱い。
「んっ――」
 思わず鼻から息が漏れて甘い音を響かせた。それに力を得たかのように真木の舌が兵部の口腔内をまさぐってくる。執拗に責められ、唾液と唾液が絡み合う水音がする。けれど決して唇を離しはしない、熱を押しつけるようなキス。何故かそれから逃れる気にはなれなくて、兵部は真木に嬲られるままに任せた。やがて透明な糸をひきながら濡れた唇が離れ、つながれた両手からも放される。
「朝食の準備ができましたよ、起きて――!?」
 今度は兵部が真木に抱きついて、ソファへと引き戻す。離れはしたものの指一本分の距離もなく詰められたままだった唇を、また唇で覆う。今度は兵部から先に仕掛けて、また濃厚なキスを交わす。
 長い長い時間をかけて飽きもせずに続けられた接吻から、真木のほうが先に身体を引いて唇を離した。
「……目が覚めてるなら起きてください」
 兵部が起きていることはもうバレバレだろう。実際兵部はまだ両腕で真木の背中に手を廻し抱きついたままだ。
「ん……まだ……」
 鼻を擦り付けるようにしながらまた唇と唇を合わせると、真木が観念したように兵部の背中に手を廻してきた。堪らなく嬉しい気持ちがこみ上げてきて、真木の口の中を探る。真木の熱にうかされて、夢中で。
 その時また遠くから、誰かの足音が聞こえた。方向からすると私室の並んでいる方からやって来て、リビングかダイニングを目指しているようだ。
「少佐、誰かが――」
「まだだって言ってるだろ」
 真木の言葉を遮って唇を追いかけて接吻する。だが真木のほうはすっかり気もそぞろで、隙を見て兵部の唇から逃れる。
「誰か来ますから!」
「真木さーん、ごはんあるー?」
 葉の声だ。
「はっ、早く離れて下さい」
「なんだよもう、うるさいな」
 などと嘯きながら真木の身体をもう一度抱く。葉の足音は扉の前まで辿りついて、しかも立ち止まってしまったので、明らかにこの部屋に入るつもりだ。真木があわてて身体を離そうとしているのに兵部のほうが反抗するかのように抱きつくと、テレポートで自分の部屋のソファに移動する。
「……あれ?」
 真木が一瞬事態を掴みかねているみたいなので、兵部は解説する。
「僕の部屋。テレポートして来た。それに、鍵もかけてある。これで文句ないだろ?」
 至近距離でじっとその目を見つめると、真木の顔が赤くなってくる。
「はい……」
 蚊の鳴くような小さな声で肯定されて、兵部はまた頬擦りすると無言でキスをねだった。
 覚悟を決めたらしい真木が兵部の身体を引き寄せて、二つの身体の間にある隙間を埋めるようなひたむきなキスが真木から兵部へと与えられる。
 今度の口付けは誰の足音にも怯えることはないことを、二人ともが知っていた。

                                            <終>
-----
お題:「朝のソファ」で登場人物が「抱き合う」、「足音」という単語を使ったお話を考えて下さい。

 このブログ、デフォルトの登録上一応18禁じゃないことになってるんですが、「どエロ」という単語が頭をかすめたのでがんばってみました。私の書く18禁じゃないどエロ、なんてこの程度でございます。ごめんなさい。すんすん。 

いつも拍手ありがとうございます!とっても励みになります~。

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  • 横山(仮名)@管理人
  • 2010-10-21 00:44
  • edit
>ぱてぃ様
 ドエロは何処に行ったという作品でなんだか色々申し訳なく候。とりあえず葉ちゃんはちゃんと食事にありついたと思えます・・・多分。(にやり)
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