■約束ブレイカー violate■
とある休日。真木が水着姿でカタストロフィ号のプールサイドでくつろいでいた時――
昼の日射しを避けるためのサンシェードの内側に人影が現れた。
「真ー木ー」
「少佐」
影の主は兵部だった。珍しく海パンに半袖シャツのみの姿だ。
「泳ぎに来たんですか」
「うん、でも真木しかいなかった」
「今日は皆任務がなくて出かけているみたいですからね」
だから真木もこうして羽を伸ばしていられるのだ。こんな休日は珍しいので、珍しくアルコールなどが脇のテーブルに置いてあったりする。
「ジントニック?」
グラスを見つけた兵部がグラスを扇ぐようにして匂いを嗅ぐと、酒の名前を当てにくる。
「当たりです」
「苦い酒が好きだよね、君は」
兵部はどちらかというと甘い酒が好みのようで、この点については真木とは話があわない。
「飲んだら泳いじゃ駄目ですよ、約束ですから」
プールに入るための扉には「プールのお約束」と書かれた紙が張っており、起床・入浴・飲酒直後のプール使用は禁止とされている。
「君はどうなのさ」
「俺は今日はもう泳ぎません」
だからいいのだ、と言外に伝えると、真木を見おろしていた兵部が真木の上に唐突にのしかかってきた。
「なっ!?」
「じゃあ思う存分僕に溺れるといいよ」
「ちょっと――」
ちょっと待って下さい、と言う前に兵部の唇が真木のそれを覆い、塞ぐ。
「――んっ――っ、人がいないからって、駄目ですってば、少佐!」
兵部の肩を掴んで無理矢理上体を退けて声を絞り出すと、兵部が不満そうに口を尖らせた。
「別にセックスしちゃいけないとは書いてなかったよ」
「駄目でしょう、常識として考えて!」
とはいえ兵部の巧みな口付けで真木の鼓動ははね上がり、息もあがっている。
このまま行くとつられてしまうのはわかりきっていたが、あえて反抗する。兵部の非常識に対する警鐘の意味もあった。
「駄目?」
「駄目です、こんなところで」
がっしりと肩を固めるように固辞する真木に思うところがあったのか、少し不愉快そうに眉を顰めた兵部だったが、直後。
「わかった」
そう言いながらにっこりと笑った。
わかってもらえた――とは思えない。その笑顔は無邪気とは遠いものだったからだ。
「真木がそう言うんならさ、折れてあげるよ」
その言葉の直後に、視界がぼやけ、歪む。身体が冷たく湿った床の上に放り出されるが、湿度が高い。――大浴場だった。兵部のテレポートで連れてこられたのだ。
「って、うわっ!」
ふと気付くと兵部は服を着ていない。そして真木もまた裸だった。テレポートした時に脱がされたのだろう。
「ここならいいだろ?」
相変わらず上にのしかかった姿勢のままの兵部が笑う。
「少佐っ、な、なんで服まで脱いでるんですかっ」
「だってお風呂で水着なんて、それこそ約束違反だよね~」
共同浴場での性行為もいけません、と言おうとした真木の唇を、また兵部の強引なキスが奪う。結果、その言葉は真木の中に飲み込まれてしまうことになったのだった。
<終>
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お題:「昼のプール」で登場人物が「約束を破る」、「裸」という単語を使ったお話を考えて下さい。
真木兵部でドン!
拍手ありがとうございます~、大変嬉しいです。ほんと。