■栗拾い Chestnut■
かつて澪がアジトにして暮らしていた廃校舎から澪とコレミツが引き上げ、その後事件の査察に入ったバベルの調査団が任務を終了して間もなく、コレミツが大きな麻袋を抱えて戻ってきた。
サイズといい形といい、真っ先にアジトの玄関にやって来た葉などは最初その袋の中身を死体だと思ったらしく明らかにドン引いていたが、玄関の三和土で麻袋の口を開けると、出てきたのは栗だった。
「なにこれ、なんだか懐かしいわね」
紅葉が数粒手に取って眺めていると、コレミツが解説する。
『廃校舎の裏に栗の木が自生していて、そこから拾ってきた』
「コレミツが拾ってきたの?すごいわね、こんなに沢山拾うの、大変だったデショ?」
マッスルの言葉に、コレミツは少し照れたように頭を掻く。
『こういう単純作業は嫌いじゃない。――澪は?』
澪、というのはコレミツとよく一緒にいる若いエスパーの少女で、なかなか人に馴染もうとしない性分のためつい先日まで件の校舎を無断借用して寝泊まりをしていた。今も同世代のカズラやカガリなどがわいわいと栗拾いの話に夢中になっているのに、その姿がない。
「さあ?部屋にいるんじゃない?」
黒巻の言葉を受けて、コレミツは澪に宛われた部屋へと向かった。
『澪』
強めにノックすると、澪の声がドアの向こう、少し遠くから聞こえる。
「コレミツ?どうぞ、入っていいわよ」
声に促されるままに部屋に入るが、澪の姿はない。よく見るとベランダに続く窓が開いている。
『澪、ベランダにいるのか』
「うん」
コレミツが窓から顔を出すと、ベランダで緩やかな秋の風にその髪を弄らせていた澪が振り返る。
「どうしたの?」
『校舎に行ってきて、栗を拾ってきた。見に来ないか?』
「いい、行かない」
澪の態度はアジトに戻った当初より大分軟化したとはいえ、コレミツ以外のメンバーとはまだ馴染めていないようにコレミツには見えた。
「明日あたりみんなで食べるんでしょ」
『そうなると思うが』
「みんなで……かぁ」
澪だって本当はもっと馴染みたいのではないかとコレミツは思うのだが。
「あたしはそのみんなに入るの、まだちょっと駄目かな。別に仲良くしなきゃいけないって訳でもないんだし」
目線を下に落とした澪の肩をコレミツが叩く。顔を上げると、コレミツの手には秋の野花で編んだ花冠が載っていた。
「わあ綺麗……。どうしたの、これ」
『澪にと思って』
「そ、そう、ありがとう」
花冠を渡すと澪がにっこりと笑う。嬉しそうに頭に花冠を載せると、少し恥ずかしそうに言った。
「……似合う、かな?」
『ああ』
コレミツが頷くと澪はさらに身体を縮めるようにして上目遣いで見上げてきた。
「みんなに見せても、いいと思う?」
『勿論だ』
「やった、ありがとう、コレミツ!」
澪はぎゅっとコレミツと手を繋ぐと、パッと離して部屋を出ていく。
澪のあとをゆっくりとした足取りで追いかけながら部屋の扉を開けると、玄関のほうから皆が歓声を上げるのが聞こえてきた。
<終>
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お題:「昼のベランダ」で登場人物が「手を繋ぐ」、「花冠」という単語を使ったお話を考えて下さい。
コレミツをメインに据えて書くのははじめてですね。今週号さぷりめんと右側の澪&コレミツ熱がヒートアップした結果がこれです。どきどき・・・。
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