■炬燵 midnight■
少し緊張気味に、ネクタイが真っ直ぐになっているかどうか手探りで確認してから、兵部の部屋のドアをノックする。
もうすぐ日付が変わろうとしている。少し時間が遅いのは承知の上で、返答を待つ。
が、一向に返答はない。普段はここで退くのだが(そして翌朝何故起こさなかったのかと咎められるのだが)、勇気を出してもう一度ノックしてみる。やはり返事がない。
「もうお休みになったか……」
珍しくノートパソコンも書類も持たず手ぶらで来た真木が、落胆してため息を落とす。やはり性欲のままに兵部を訪ねるのはよくないということなのだろう。項垂れた真木の髪の毛が湿っているのは、しっかりシャワーも浴びて準備を整えてきたからだ。
今日は夕食後の兵部は何をしていた?部屋に戻らず、ゲーム部屋で黒巻ら女性陣とゲームをしていたようだったが、と思い当たり、なんとなくゲーム部屋に足を運ぶと、扉が僅かに開き、電気が点きっぱなしだった。
また葉あたりが電気を消し忘れたのだろうとノックもなしに踏み込むと、昨日設置したばかりのこたつから兵部が生えていた。
「少佐っ!?」
正確にはこたつに身体を丸めて入り込んだ姿勢のまま、兵部が眠っている。頭をこちら側に向けたままなので、無防備な寝顔がよく見える。
後ろ手に部屋のカギを閉めてから兵部の脇にしゃがみ込んで、肩に手を伸ばす。
「少佐、起きて下さい、少佐」
「んー……?」
肩ごと身体を揺すると、眠りの浅い兵部がすぐに目を覚ます。
「あれ?真木?」
「あれ、じゃありませんよ。風邪をひきますよ?」
「ふわぁ。よくねた……」
寝ぼけまなこをこすり、その場で伸びをした後に、兵部がちょいちょいと指先で真木を呼ぶ。
「どうしました?」
「もっと近づいて」
「はい」
兵部の頭に覆い被さるような姿勢になると、兵部がニヤリと笑って真木の首に手を廻す。
「少…」
最期まで訊くことはできなかった。兵部が真木にぶら下がるようにして真木の頭を引き寄せ、その唇を奪ったからだ。
「なっ、なっっ…!」
すぐに唇を離されたので、何をするんですか、と言おうとしてどもってしまう。きっと顔も赤くなっているに違いない。
「あは、あははっ」
「とと突然、何を……っ!」
「君は本当に、愛されることに慣れてないなあ」
そう言うとまた真木の唇にキスをする。今度は少し長い間触れ合ったが、唇を離しても兵部の瞳はまだ笑っている。
「何がおかしいんですか」
「その気まんまんで僕の部屋に忍んでいったくせに、キスごときで動揺するのがおかしくて、だよ」
――心を透視まれた。いつもの事だが、何故か今日は特別恥ずかしい。
「突然でしたし、それにこんな公共の場所、誰が来るか分からないじゃないですか!本当にもう……」
「カギなら君がかけたじゃないか」
ニヤニヤ笑いを続けたまま、兵部はごろんとうつぶせになると真木と至近距離で向き合う。
「それは……」
「あー皆まで言わなくて大丈夫。君にだって下心くらいあるよね?」
ズバリと言い当てられて、何か反論しようとするのだが言葉が出てこない。ただ口をぱくぱくと開閉させるだけだ。
「じゃあ、愛し合おうか」
ようやくこたつから身体を出した兵部が、真木を抱きしめる。
「ちょ、ちょっと、ここでですか?」
「悪い?」
「……」
悪いです、という言葉はどうしても口から出てこなかった。かわりに、こたつの熱で暖まった兵部の身体のぬくもりがやけに気持ちよくて、真木はその熱を確かめるようにおずおずと兵部の身体に腕を回す。
時刻は1時を過ぎていた。
<終>
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お題:「深夜のこたつ」で登場人物が「愛される」、「瞳」という単語を使ったお話を考えて下さい。
夜更かしおじいちゃん、さらに夜更かしフラグです。翌朝起きれなくってみんなに噂されてるといいんじゃないかな!
お返事