■新月 new moon■
夜更けの新月は地表近くを這うようにして天を巡り終え、その姿を水平線の彼方に沈めようとしていた。
真木は新月を船の窓ごしに見るともなしに眺めつつ、他人に見られることのないように用心しながら呼び出された先――兵部の部屋へと向かう。
控えめにノックすると「どうぞ」と真木を促す兵部の声が聞こえた。
「いらっしゃい」
照明を暗めに落とした部屋の中を一望するも、肝心の兵部の姿がない。
「?」
至近距離から聞こえた声の源を辿ろうと頭を巡らせようとしたところに、背中に重みが覆い被さってきた。
「なっ!?」
とっさにその重みを支えるように己の背中に手を廻すと同時に、慣れたシャンプーの匂いが香る。
「少佐、ですか」
「あっははははっ。サイコキノでずっと天井に張り付いてたんだよ、気付かなかっただろ」
背中におぶさる形になった兵部が楽しそうに笑う。真木は首だけ回して兵部を見た。バスローブ姿で、髪が僅かに湿気を帯びている。シャワーを浴び終えたばかりなのだろう。
「驚きましたから、降りて下さい」
「なんだよ、ノリ悪いなぁ」
ぶつくさと文句を言いながら兵部は真木の背中から降りると、正面に回り込んでまっすぐに真木を見据える。
「待ってたよ」
「……お待たせしました」
どちらからともなく身体を寄せ合うと、唇と唇が触れて、そのまま濃厚なキスへと移る。
すっかり膝から力の抜けた兵部を抱き留めながら、真木は兵部をベッドへと運ぶ。
もう一度、今度は触れ合うだけのキスをすると、真木は兵部から身体を離した。
「?」
兵部の潤んだ瞳に見つめられて、また唇を寄せたくなったが必死でこらえる。
「浴室をお借りします。まだシャワーを浴びてないので」
このあと起きることについて、清潔な身体で臨みたいと真木は思っていたのだが、兵部が頬をふくらませた。と思うとネクタイを掴んでぐい、と引き寄せられる。
「!?なんですか」
「そこまでだよ真木。鈍感なのもいい加減にして欲しいな」
「?」
真木がぱちくりと目を丸くすると、兵部の目に微かな怒りが宿る。
「今すぐ君が欲しいんだ、わからない?」
「しかし――」
「異議は認めないよ」
拗ねた声で言い放つと、真木の手を取り、兵部自身のいちばん恥ずかしい場所へと誘う。
「あ……」
真木が真っ赤になって絶句したのに反して、兵部は悩ましげな吐息をついて、目尻を赤らめてすぐ近くの真木を見た。
「触って」
命令と懇願の狭間の声音で真木に希うと、真木の手が兵部をまさぐり始めた。それに加えて二人の距離はますます近づく。
「……勃ちあがって、ます」
「それだけ?」
「それから……」
真木の方から兵部に顔を近づけて、至近距離から耳打ちする。
「こっちのほうはひくついてます。そんなに、欲しかったんですか?」
「これ以上言わせる気かい?」
兵部が新月のように目を細め笑みを浮かべて真木を見ると、真木が噛み付くようなキスをしてきた。
貪られる快感に酔いながら、兵部は熱にうかされたような仕草で真木を緩く抱きしめた。
<終>
-----
題材[夜更けの,新月,宿る,そこまでだ]恋愛ものっぽくやってみよう!
改めて恋愛ものっぽく、と言われると、ほとんど恋愛ものしか書いてなかった自分に気付いて唖然としました。ボーイズラブってくらいだから当たり前なのかもしれませんがこわいこわいマンネリ怖いマジヤバイ。