■休日 holiday■
ひたひたと素足で床の上を歩く音が聞こえる。
眠気を纏ったまま目を開くと、真木の大きなワイシャツを羽織った兵部がシャワールームから歩いて近づいてきていた。昼間の真木の部屋の中を歩く兵部の髪は濡れ、シャツの裾から覗く足も濡れたままで、その水音がことさらに裸足の足音となって響いたのだと気付く。
「ごめん、起こしちゃった?」
ベッドの真木を覗き込むように身体を傾けてきた所を、ベッドについた肘を引っ張る。
「おっと」
バランスを崩して真木の胸の上に倒れ込む兵部、その背中に真木は手を回して引き寄せた。
「……です」
「ん?」
「ちゃんと身体を拭かないと、駄目、です」
くくく、と兵部が含み笑う。
「何か、おかしいですか」
頭がぼうっとしている。昨日の夜もほとんど寝てないようなものだし、もう昼になっているみたいだが、まだ起きあがる気にも目を覚ますつもりにもなれなかった。常にはやらないことだが、今日くらいはいいだろう。
「別に。君らしいと思っただけ」
耳を擽る兵部の声が心地良い。胸の上に感じる兵部の重みが気持ちをほっとさせる。この大切な人が風邪でも引いたら大変だ。それが真木のメンタリティだった。
目を閉じたままで兵部を抱いていると、猫の子のように兵部が頭を真木の首筋に寄せてくる。
「大体どうして、俺のシャツを着てるんですか」
兵部の手より少し長いシャツで掌の半ばまでを覆われているところも、シャツの裾から太股のギリギリのラインが覗いていることも、真木には扇情的に映る光景だ。しかもそのシャツは昨晩の行為の時に脱ぎ散らかしたものだ。
「バスローブか、せめて洗ってあるシャツを着ればいいのに」
「だって君の匂いに包まれていたかったんだもの」
「……」
どうしよう。今の一言で真木の意識は目覚めた。情けなくも劣情を煽られてしまったからだ。でもまだ目を開きたくない。瞼の裏に移る陽の光の優しい色を楽しんでいたい。両方の気持ちに心を揺らしていると、兵部が真木の首の後ろに両腕を回してきた。
「少佐?」
「ねぇ真木、寝たければ寝てもいいし、愛し合いたければそう言ってもいいんだよ」
そして一層身体をぎゅうっと押しつけてくる。耳元で囁かれる声は甘く、優しくて。
「今日は休日なんだから」
真木は再び兵部の頭を撫でると、瞳を閉じたままでその額にキスをした。
<終>
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お題:「昼の部屋」で登場人物が「愛し合う」、「裸足」という単語を使ったお話を考えて下さい。
お題の「愛し合う」がくせ者でした。私が書くと18禁にry (このブログは一応成人向け標記はないことになっている(サイトはあり))
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