■人形と犬 doll■
昨日から寒波が押し寄せてきて、夕方になると船の中も僅かに寒い。
船の片隅にある共用スペースで真木がノートパソコンを睨んで仕事をしていると、後ろから声をかけられた。
「真木、そこ寒くない?」
「少佐。――言われれば、少し足下から冷えが」
「そうだろう?」
真木の脇に立った兵部が、何が嬉しいのか胸を張るような仕草でうんうんと頷く。
「場所を移さないかい?」
と言われてノートパソコン片手についてきたら、こたつのある部屋にたどり着いた。部屋には他の人影はない。
「こたつの上で作業ですか」
「いいだろ、たまには」
兵部がさっさとこたつに入り込んで陣取ってしまったので、真木も同じこたつに潜り込んでノートパソコンを開く。こたつの天板の上のみかんがなんともいえずやる気を削ぐ。
それでもカタカタとキーを叩き始めると、真木の足を兵部が蹴った。
「何をするんですか」
「邪魔してるの。暇だから」
「子供ですか!」
「僕まだ17歳だしー」
よく言う。真木が溜息をつくと、今度は兵部は炬燵の中に潜り込む。
「ばぁ」
「……」
今度は真木の股の間から顔を出してきた。まったく、どこまでも邪魔する気らしい。
兵部が炬燵の中で身を捻って、真木に向かって仰向けになってその太股に頭を預けた。
「髪撫でて」
「何故です?」
「何故でも!なんででも!撫でて!」
言われてノートパソコンから手を離して髪を梳くと、兵部が気持ちよさそうに目を細めるので、ついそのまま何度も撫でてしまう。
「はー、寒い日はこたつに限るよね」
「猫ですか」
「たまに言われるなあ、猫っぽいって」
兵部は悪戯っぽく片目を閉じる。
「真木は犬だよね。真っ黒い大型犬」
「こたつは似合いませんか」
「意外といいんじゃない?」
何が意外となのか、どこがいいのか分からないが、兵部が上機嫌なのは伝わってきたので、真木はただだまってその頭を撫でる。
が、唐突に思い立って不意打ち気味に兵部の顔に自分の顔を近づけて、唇の端を舐めてみる。
「くすぐったい」
それまで人形のように撫でられるままだった兵部が笑みを浮かべた。
「犬は舐めるものですから」
「舐めるだけ?犬のままでいいの?」
「……」
くすくすと笑う兵部の顔がいかにも真木を誘っている。そしてその誘惑を振り切る理由は真木にはなかった。
唇に唇を押し当てて、深く口づける。水音を立てて兵部を堪能する。
やれやれ、と心中で溜息をつく。これでは仕事にはならない。けれど。
たまにはこたつも悪くないかもしれない。そう思う真木だった。
<終>
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「夕方のこたつ」で登場人物が「髪を撫でる」、「人形」という単語を使ったお話を考えて下さい。
こたつの季節が終わる前にこたつネタを。
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