■サイハテ the end of world■
太陽は昇っているが、時刻は定かではない。辺り一面白の世界の中、雪からの光の反射が眩しくて、真木は目を細める。
「くぅ~、鼻から息をしないと喉が凍えそうだね」
隣にいた兵部が真っ白い息を吐きながら真木同様ボアのちて重装備のコート姿で辺りを見回す。
「ちょっと極端ではありませんか。日本は夏ですよ?」
「だからいいんじゃないか。暖かいのはいいことだよ。めったなことじゃ飢えることもないし、凍えることもない、それがいかに恵まれたことか。子ども達に学習させる絶好の機会じゃないか。せっかく四季のある日本の学校に通ってるんだし」
機会というよりこれは陰謀に近い、と真木は最果ての北極圏の空の下、カタストロフィ号の甲板の上で思う。
しかし兵部は文字通り涼しい顔をして辺りを見回して楽しそうにしている。そんな兵部の姿を見ていると、おや、と違和感に気付く。
「少佐、桃太郎は?さっきまで少佐のコートの胸ポケットに巣食っていたと思いましたが」
「桃太郎は寒さに耐えかねて葉と一緒に船内に戻ったよ。小動物はヤワだよねー」
「……これ以上寒いと冬眠すると思ったのでは」
「あはは。真木でもそんな冗談言うんだねえ」
あっけらかんと笑いながら楽しそうにしていると、ひらひらと雪が降ってくる。もちろん船の上にも雪は降るが積もるということはしない。サラサラのパウダースノーは強風ですぐに飛んでいってしまうからである。
おかげで二人とも傘を差さずに銀世界を眺めていられる。その時、ドドド、という音とともに断崖状の大きな氷塊の一部が雪崩れて海へと落ちていった。
「すごいねー。やっぱり北極も温暖化?」
「CO2は関係ないという説もあるらしいですが。よくテレビで温暖化を叫ぶ時とかに見る映像ですが、目の当たりにするとは思いませんでした」
「来てよかったろ?」
にっこりと笑まれると、嫌だとは言えなくなる。カタストロフィ号の寒冷地での耐久性も確かめたかったし、もともと真木は反対してはいなかったので、自然と兵部の笑顔を見とれているだけなる。
「他のみんなも見たかなぁ」
「見たのではないですか。確かめたいなら戻りませんか、船内に。そろそろ寒さが効いてくる頃でしょう」
「うん、そうだね、戻ろうか」
兵部の言葉を受けて真木は船への入り口へと足を向ける。兵部の身体に、特に心臓にはあまりいい条件ではないと思うとつい気が逸って兵部を従えるような形で早足に歩くことになる。
「まーぎーっ!」
「はい……うわあっ!?」
後ろから声をかけられたかと思うと全身で飛びかかられて、膝をつきそうになるのをなんとか立ったままこらえる。
「なんですか!?」
「寒くない」
「はい?」
コアラよろしく真木にひっついていた兵部が真木の前へと回り込む。
「こうやってくっついてれば、寒くない。だろ?」
「それは……まあ……」
確かに頬が熱いし、鼓動も早くて寒さはあまり気にならなくなった。――いや待て。
「いえっ、それとこれとは話が違います」
「つれないなぁ、真木は」
「何と言われようと」
ひっついていた身体に手をまわして、兵部を抱きかかえるように姿勢を変えさせる。
「中に戻りますよ――ああ、やっぱり頬が冷え切ってるじゃないですか」
兵部の頬に自分の頬をすり寄せるようにしてその肌の冷たさを確かめると、兵部がむっすりとした顔になった。
「……恥ずかしい奴だな、君は」
「はい?」
あまりにぼそぼそと呟かれて聞き取れなかったが、兵部はそっぽを向いてしまった。
なんとなく会話も途切れて、真木は寒さにか羞恥にか頬を赤く染めた兵部を抱きかかえて船内に戻る扉をくぐる。
「あれー、何してんの、二人とも」
『”お姫様だっこ”ッテ言ウンダロー、ソレ』
「葉!に、桃太郎……!」
扉のすぐ近くには葉と桃太郎がいて、どうやら外の景色を眺めていたらしい。
「いやっ、これはっ!」
「それはね」
兵部は真木に対してしてやったりという顔を向けた後、葉たちに向かって告げた。
「こうすると寒くなくなるんだよ」
「……ふーん……」
『ヘエー』
「……」
葉の視線が冷たくて寒いです、とは言えない真木であった。
<終>
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題材[最果ての,雪崩れ,巣食う,ひらひら]
さぷりめんとネタです。初音ミクの「サイハテ」を聞きながら。なんだか今回も真木×兵部←葉みたいな構図になってしまいました。桃太郎でごまかそうとしたのがミエミエですハハハこやつめハハハ。