■エレベーター Elevator■
普段は階段を使うところを、通りがかりに扉が空いていたので6階から1階への下りエレベーターに乗り込む。扉が閉まりそうになったところに葉が滑り込んできた。地階のボタンを押すと、扉が閉まり、エレベーターがゆっくりと動き出す。
「……あまり公の場に顔を出すなと言っているだろう」
この鳥頭が、と言おうとしてさすがに口が悪いと思い自粛する。
「公の場って……真木さんとマッスルほどじゃないじゃん」
「俺とマッスルはまた別だ。昼間から子供が大使館をうろつけば目立つという意味だ」
「俺まで子供扱いかよー」
「公人じゃないからな」
ムッとした葉に、少し言い過ぎだったかもしれないと真木は思う。葉は最近は中学に通い出した澪達の送り迎えをしている。それに紅葉に言われてついでに買い出しを頼むだの任務があるから近くまで送れだのすっかり運転手業が板についてしまっている。それも立派な任務だし、真木が見る限り葉は楽しんでやっているように思えた。そしてそれによって、色々な歯車が順調に回っていることも真木は知っている。
「言い過ぎた。悪かったな」
「いいけどさ。真木さん、今日は船には戻るの?」
「夜には戻る予定だが」
葉の問いに答えながら、一番最近兵部を抱いた時の熱を思い出す。赤く染まった唇から漏れる喘ぎ声、しがみついて爪を立てられた背中の疼きも。――会いたい。一刻も早く声が聞きたい。
「じゃあ今夜は少佐とラブラブ?」
「ら……そ、そんなことはない!」
ちょうどはしたない想像をしていた所だったので、反射的に全否定してしまう。
葉の言葉は冗談だと思いたいが、最近どうも葉や紅葉あたりにはすっかり兵部との関係を知られているのではないかと思うことが多々ある。気のせいだと自分に言い聞かせてはいるけれど。
「ふぅん。じゃあ俺が獲っちゃおうかな」
「は?」
「冗談だよ」
チン、と音が鳴って、1Fで扉が開く。腑に落ちないながらも真木がエレベーターを降りると、後ろから葉の声が聞こえてきた。
「どうせ今夜も少佐と会うに決まってるくせに、真木さんが下手な嘘をつくからさ、俺も嘘ついてみただけ。気にしないで、じゃね」
振り返ると、扉が閉まりながら葉が向こう側で手を振っているのが見える。
地階まで降りるのは船へ直通のゲートが地階にあるからか、それとも地下駐車場から車で出かけるのか。
前者だった場合を考えて、今日の仕事はことさらに速く切りあげることを決めた真木だった。
<終>
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お題:「昼のエレベーター」で登場人物が「嘘をつく」、「鳥」という単語を使ったお話を考えて下さい。
またまた真木×兵部で真木と葉。たまたま続きましたね。そして葉真木への道は遠そうですね。ぐふぁ。
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お返事
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