■こたつ外交 Diplomacy■
深夜の船の中を、真木は確かな足取りで歩く。先刻部屋を訪ねたら、兵部の返事がなかった。寝ているのか、あるいは何か不興を買いでもしたのかとも一瞬思ったが、兵部のいる所には心当たりがあった。
その部屋の前に立ち、ノックもせずに戸を開けると、煌々と明かりがついている。その部屋の畳みの中央、ゲーム部屋と呼ばれる場所のこたつにくるまるように、兵部が一人で寝ていた。
「少佐」
傍に屈んで兵部の身体を揺り動かす。普段から眠りの浅い兵部はすぐに目を開いた。
「ん、真木……」
「駄目です、こたつで寝たら体に障りますよ。部屋に戻りましょう」
「やーだー」
子供みたいにぷいっと顔を背けられて真木がショックを受けている間に、兵部はこたつの中に潜り込んだ。
「少佐っ」
つられて這いつくばって炬燵の中に顔を入れると、すぐ至近距離に兵部の顔があった。吐息が当たるほど、すぐ近くに。
「っ……」
真木も驚いたが、兵部も驚いたらしい。そのまましばし二人とも固まる。
まずい。なんだか、どんどん胸が苦しくなってきた。こたつの中という息苦しい空間に二人も入っているのだから当然だが、それだけでも、ない、ような。心なしか兵部の顔も少し赤らんできたような――
その時、クス、と兵部が笑った。
「何か、密会っぽいね」
「こたつの中で、ですか?」
「そうそう。こたつ外交とかね。相手が寒い国の人間だと効くと思うんだけどなー」
「くだらないことを言ってないで」
不意打ち気味に真木は兵部の頬に唇を寄せてキスをする。
「早く、出て下さい」
真木の触れた頬にばっと手を添える兵部の仕草は一件忌避されたようにも思えるが、更に赤く染まった顔の色で、その可能性は否定された。
「……そう言うなら、真木こそ早くこたつから出なよ」
「少佐こそ」
今度は無防備な反対側の頬にキスする。更に赤くなって両頬を自らの両手で覆ってしまった兵部が、キッと真木を睨んだかと思うと、今まで自分がそうしていたように真木の両頬を包むようにして、真木の唇にキスしてきた。
「んっ……」
いきなり舌を入れてくる激しいキスに、真木もまた頭が茹で上がるかのように熱くなるのを感じながら、時に吸い、時に甘く噛んでキスを交歓する。そしてゴン、という音とともに二人の行為は止んだ。夢中になった真木が天板に頭をぶつけたのだ。
「つっ……」
「真木……」
兵部がジト目で見てくるので、真木も減らず口を叩く。
「――しちゃ、駄目ですよ」
「ん?」
「こたつ外交。しちゃ駄目ですからね」
冗談ぽく言ったつもりの真木だったが、兵部は頷いて言った。
「しないよ」
そして笑いながら兵部がこたつから這い出ると、真木もまた外気に自分の身体を晒す。やけに涼しくて解放されたような気になったのはごく一瞬。
「君以外とはね」
それが『こたつ外交』のことを指しているのだと気付く頃には、また兵部の濃厚なくちづけが真木を待っていたのだった。
<終>
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お題:「深夜のこたつ」で登場人物が「密会する」、「吐息」という単語を使ったお話を考えて下さい。
そんなこんなで真木兵部で冬の風物詩・こたつでした。みかんは出せなかったなー。
3月のプチオンリーには出ますかというお話があったのですが、申し込み中です。出る予定です。なのでそっちの原稿もそろそろ考えないといけない季節になってきました。が、できる限りこちらも続けていきたいなーと思っていますのでよろしくお願いします。