■野球 baceball■
某町はずれのグラウンドで、野球大会は開かれていた。
新春パンドラ支部対抗野球大会。兵部らは全国に散った精鋭達の繰り広げる試合の設営と審判にてんてこまいである。
「誰が言い出したんだろう、野球大会なんて」
「さー?俺や真木さんや少佐じゃないことは確か」
カガリと葉がぐったりとした顔でスコアをつけている。他に野球のルールに明るい者が少なかったせいで二人も表示板操作のある部屋でのスコア付け作業へとかり出されたのだ。
「大体、ルールが既になんでもありな時点で無茶苦茶だろ。真木さんが審判に走り回ってるけど」
超能力を否定したらパンドラではない。けれど超能力を駆使したら野球にならない。難しい所である。
「紅葉姐さんが投げる消えるボール、あれは打てないって」
「テレポート使われちゃあなぁ……」
「かといって俺がいくら絶好調の日だって言ったって発火能力なんて役立たずもいいとこって感じだし」
「俺も無意識にコース変えたりしちゃってるみたいだったしなぁ」
結局紅葉のテレポートも葉の投球コース変更も審判の裁定により無効となって、カタストロフィ号支部(?)はアウトをみるみるうちに創出して大敗を喫し、早々に大会運営側にまわされたのであった。
「あぁ、早く終わらないかな、もう」
「ダルいっスよねー……」
カガリもうんざりした様子だ。ルールが分からなくて見てても面白くもなんともないと言い張る女性群すら人手としてかり出されてあまりいい顔はしていなかったし、この大会への率直な感想を述べると、葉は「グダグダ」だと思っている。
「あ、でも、救いがあるかも」
「?」
怪訝な顔をした葉に、カガリは窓越しに空を振り仰ぐ。
「じきに雨が降る。そんな気がする」
「たしかにね」
天気は下降気味だし、雨に強くないカガリが言うのだから説得力がある。そして雨が降ると野球の大会ルール的にも超能力的もお流れになるだろう。それは葉も望むところであった。その時。
「あっらー、お二人さん、仲良くおサボりかしら?」
二人の背後から声が聞こえた。
「マッスル!なにしてんの?」
「んまっ、なにしてるってお言葉ねぇ。アタシは男のオシリ見物……じゃなくって、見回りよン。二人とも、サボったりしてないでしょうね?」
「見れば分かるだろー……」
カガリがげんなりとマッスルに答えるが、対照的にマッスルはうきうきしている。
「もう、最高!スポーツマンシップと、男と、汗と、熱血!これほど燃える企画もそうそうないわ~。発案してよかったっ」
半ば小躍りしながらいつもの恰好で体をくねらせるマッスルに、葉が剣呑な目を向けた。
「マッスル……あんたのせいか、グダグダな大会は……」
「せい、だなんてひどーい。一人で開催までこぎ着けて全部アタシがお膳立てしたのに」
一人で全部準備したと言われて、葉とカガリが目を合わせる。
「有能っスね……」
「無駄にな……」
そしてカガリと葉が揃って肩を落とす。と、カガリが弾かれたように顔を上げた。
「?」
「外!音がする、雨の音!」
マッスルも無言になって耳をそばだてる。葉の耳にも聞こえてきた庇を叩くそれは間違いなく雨音だった。
「やった!」
「いや~ん!」
カガリがガッツポーズをする。マッスルが項垂れる。そんな二人の対比を見て、その後ろでは庇から雨水が落ちてはやがて連続した流れになって。葉はそれらの景色を見ながら、不思議と愉快な気分になるのだった。
<終>
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題材[絶好調の,雨音,次々と,そんな気がする]自分の得意ジャンルでやってみよう!
得意ジャンルと言われて何かやったことのないジャンルベースの話にしようかと野球を思い出しましたが、全然得意じゃなかったのでグダグダな感じになってしまってオーノー。まぁ少しでもほのぼのしていただけたらいいかなと。
いつもぽちっとありがとうございます。