■独り占め one■
船が停泊しているところまで、この先公共の交通機関はない。自らの足で歩いていくのは面倒だが、テレポートで葉と荷物とを運ぶのもなにか不健全な気がして、歩いて戻ろうと提案すると葉はぷう、と頬をふくらませた。
「めんどくさい。テレポートで帰ろうぜ」
「たまには歩かないと、アンタ歩き方忘れるわよ?はた迷惑だからやめてよね」
実際小さい頃の葉は能力を使って浮いているほうが楽だとか言いはなって、歩こうとしたらつまずいて転んだことがある。
「歩くのあんま得意じゃねーんだよ。仕方ねーだろ。紅葉はなんでそんな健脚なのさ」
「日頃から身体鍛えてるもの。葉、あんまりずぼらな生活してるとあっという間にメタボ一直線よ」
「いーもん別に、一番欲しいもんは手に入らないって決まってるから」
「だからって怠けていいってことにはならないでしょ」
紅葉は苦笑する。葉の一番欲しいものと、自分が一番欲しいものはきっと同じ類のものだ。届かないとわかりきってる思い。だから耳を塞ぎ目を閉じ口をつぐんで日々を暮らしていく。
「だってさ、見てよこの荷物。重いじゃん」
お互いに両手に袋を二つずつ持ち、葉は更に脇に丸めた敷物を挟むようにして持っている。腕がもう二本ずつあっても足りないくらいだ。
「わがまま言わないで歩く!」
紅葉はぴしゃりと言い放つと先に立って歩きだす。昼間の町中、人目があるので葉もさすがに能力は使わずついてくることを選んだらしい。
紅葉のうしろをとぼとぼと歩く葉が独り言のように呟く。
「……戻ったって少佐いないのに」
「真木ちゃんもね」
二人はここ数日某国でのミッションに参加しており、船から降りている。だからその分家事その他が二人にまわってきたのだが。
「もーさ、毎食てんやものでいいじゃん。ピザとかハンバーガーでさ」
「あなたいつからコメリカンになったのよ」
「なーんかやる気出ないの」
「それはわかるわ、でもどうでもいい感じだからって、本当にどうでもよくしちゃったら、子ども達の健康に影響が出るわよ」
そこまで言われると葉もへらず口をやめて一息つく。
「……へーへー」
「ちなみに」
紅葉はふいに立ち止まり、何かを宣言するように胸を張って朗々と響く声で葉に告げた。
「予定が早まって、今日の夜には少佐と真木ちゃんは戻ってくることになったから」
「へ?」
突然聞かされたことに葉が目を丸くする。ひねくれた末っ子もこんな時は子供の頃と変わらない表情を見せる。紅葉はそれが好きだった。
「だから早く戻っておかえりなさい会の準備しなきゃいけないの。この荷物もそのせい」
「なんだよー、もっと早く言えよー」
葉は顔では拗ねてみながら足早に歩き出す。立ち止まったままの紅葉の腕を引っ張って。
「早く帰ろう、紅葉」
さっきまでのやる気のない表情はどこへやら。
「毎度のことながら、現金よねえ」
紅葉がぼやくと、葉はにやりと笑う。
「そんなわけで、今日のおかえりなさい会では真木さんのこと引き留めておいてよね」
「どうしてそういう話になるわけ?少佐を独り占めしたいのがアンタだけだと思ったら大間違いよ?」
「マッスルやちびっこには負けませんー」
悪巧みをしながら二人は船へと戻る道を急ぐ。
戻ってくる人々のためと、それを迎えるお互いのために。
<終>
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題材[はた迷惑な,昼,響く,やめて]
真木兵部前提の葉兵部・真木紅葉とか、そういう錯綜したのを一度やってみたかったのです。見事に玉砕した気がしますが。
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