■ファストフード fast food■
今日は日差しの強い中を歩いたから、しっかりヘアケアしないと。
お風呂セットの中にトリートメントがあることを確認しながら深夜の大浴場へ向かう紅葉の視界に、紙袋を抱えた真木がこちらに歩いてきた。
「あら、真木ちゃん」
「風呂か、紅葉」
「まぁね。あら、どうしたの、それ」
よく見ると紙袋は大手ファストフード店のもので、抱えた腕と逆の手にはハンバーガーの包みを持っている。
「ああ、パティが何やらオマケが欲しいとやらで大量にハンバーガーを買い込んでな。他に食べるものがいないか配ってまわっているところだが、葉を見なかったか?」
――カチンときた。
「あたしの分はないの?」
「え?だって女性はファストフードは太るとかなんとか言い出すだろうが」
「ちょっと!男女差別!!」
あまりにカチンと来たために、真木の手からハンバーガーの包みを奪い取るとその場でむしゃむしゃと頬張る。
「お、おい、紅葉?」
「にゃによ?」
半分かた食べて口の中にまだハンバーガーが残っている状態から真木に口答えして、もう半分を三口で食べきってごくんと飲み込みと、真木が目を丸くして紅葉を見ている。可笑しい。普段は無意識にマナーや外聞を気にしてはいるが、紅葉だって本気でがっついたらこの位のスピードでハンバーガーの一つくらい食べきることができるのだ。……少し胸のあたりが苦しいが。
「パティにごちそうさまって言っておいて。あと葉はゲーム部屋の近くで見たわよ、じゃあお風呂入ってくるわね」
「あ…ああ……」
浴室へと向かう肩越しに振り向いた紅葉の視界に映った真木は、まだ何が起きたかわからない、という顔をして廊下に立ちつくしていた。
誰もいない浴室で、広い浴槽に浸ると本音が出た。
「嫉妬しちゃうわよね」
特定の誰かに対してでもない、ましてや葉に対してでもない。普段は女であることの上にあぐらをかいていると言われればそうなのだが、ああいう時にさりげなく戦力外と見なされるのは時折カチンと来るのだ。
「悪い癖、なのかな?」
それとも女性特有の気紛れだとでも思っているのだろうか。真木のことだからそう解釈していそうな気がする。
「男とか女とか、関係ない時代もあったのにね」
時々、少しだけあの頃に戻りたいと思うことがある。今に不満があるわけじゃないけれど。
浴槽に顎の下までつかりながら、しばし過去に思いを馳せていると、体が温まって額に汗が浮かぶ。
あがろうかな、と半身を浴槽から出したところで思い直して、顔だけタオルに汗を拭うとまた深々と浴槽に浸かる。
「こんな時間にハンバーガーなんて、太ったらいやだから……200数えるまであがらないことにしよ」
そして紅葉はゆっくりといち、に、と口に出して数を数え始めた。
<終>
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お題:「深夜の浴室」で登場人物が「嫉妬する」、「ハンバーガー」という単語を使ったお話を考えて下さい。
サンデーの扉の真木と紅葉のたこ焼きあーんが強烈すぎて真木さんと紅葉のお話を書きたくなりました。そんでこんな感じに。すいません真木紅葉としてはぬるすぎますよね・・・(滝汗)
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