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hyoubutter short story

hyoubutterのショートショートストーリー集
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未来の約束 fortune

澪だって夢を見るお年頃。お相手はコレミツで。


■未来の約束 fortune■

 なんだか澪の調子がおかしい。と昼の並木道を並んで歩きながら、コレミツは思う。
 今日は二人、食料品の買い出し係で街に出ていたのだが、澪は買い物の最中もぼんやりしてたり、メモをどこにしまったか忘れたりしていた。
『何かあったのか?』
 荷物を持ったまま今日何度目かの質問をするが、澪は変わらず。
「なっ、なんでもないっ」
 そう言うと、ぽーっと顔を赤くしてどこか遠くを見るような目をする。どうやら不快な類の悩みや心配事ではなさそうだが。
 コレミツの心配に気付いているのかいないのか、またしばらくの間澪は無言になる。いつもは姦しいほどに話しかけてくるのに。
 やはり中学に通うようになって思うところがあるのだろうか。そんな事を考えていると、澪が口を開いた。
「コレミツはさー、プロポーズって、したことある……?」
 驚いて澪の顔を見ると、視線は街を歩くカップルに向けられていた。コレミツはつんのめりそうになりながら頭を掻く。
『なんだそれは。流行っているのか』
「えっ?」
『先日、カガリがカズラに”キスってしたことある?”とたずねたと聞いたが』
「あー……ちさとと東野の……それとは別ー」
 ぱたぱたと手を降ると、澪の目線はある一点に注がれる。カップルの女性の手を見ているようだが。つられて見ると、その細い指には銀色に光るファッションリングが嵌められている。
『……?』
 わけがわからない。と、カップルが去ってそのあとをたっぷり十数秒見ていた澪が、目線を前方に向けると、その瞳を大きく開いた。
「ねぇコレミツ、あれ!」
 澪が指をさしたのは、とある百貨店の前でアクセサリー類を並べて販売している、国籍不明の男性の露店である。
「指輪!」
『指輪がどうかしたのか』
「見たいの、指輪、指輪が!できるだけ安っぽいやつ!」
『まあ、いいが……』
 コレミツの返事を待たずして駈けだした澪が露店にたどり着くと、早速陳列されていた指輪を真剣に見始める。
「いいシルバーリングありますよ」
 少し独特のイントネーションで、店員の若い男が澪とコレミツに語りかけてくる。
「シルバーかぁ。うーん、違うんだよなぁ……」
『何がだ?』
「紅葉ねーさんが、プロポーズされた時の指輪」
『なにっ!?』
 澪はさらりと言ったが、コレミツは初耳だった。そして真に受けた。
『誰からだ!?いつ!?OKしたのか?』
「……コレミツにも人並みの好奇心はあるんだね。安心した。なんかねー、小さい頃の話だって」
『そ、そうか』
 紅葉の幼少時についてはあまり詳しくはないが、今の美貌から考えるに、小さな子供の頃ならいくらでもありそうな話だ。
「いいなぁ、あたしも欲しいなあ」
『アクセサリーが?』
 ピアス以外のアクセサリーにはあまり興味のなさそうに見えた澪だが、何か心境の変化があったようだ。思春期特有の成長かもしれない。
「そこの無口な旦那、ひとつ買ってあげたらどうですか?」
「それいい!欲しいな、コレミツ!」
 一瞬財布の中身を思い出すが、こんな露天で売っているようなものなら何とかなるだろう。
『構わないが』
「で、プロポーズしてもらうのかい、お嬢さん」
 どうやら澪の発言を聞いていたらしく、店員がにこにこと妙に人好きのする笑顔で勧めるものだから、それも悪くないような気がしてきた。もちろん、本気ではないが。だってまだ澪は庇護されるべき年齢だ。いわば娘に対する感覚に近い。
『プロポーズは……いやいや、それより、好きなのを選べ』
「やったあ!じゃあね、あれ、あのピンクの石がついたやつ!」
 薄桃色の『ローズクオーツ』と札のついた指輪を澪は選ぶ。コレミツはサイズを確かめてからのほうがいいんじゃないのかと言おうとしたが、澪はそこまで考えていないようだ。
「ありがとうございます。すぐにつけます?」
「うん!」
 コレミツが金を払うと澪が左手の薬指に指輪を嵌める。が、どうやらサイズが大きかったらしく、隣の中指に代えてみたらぴったりきたらしい。が、少し不満そうだ。
「ちぇー、ちょっと大きいや」
『左手の薬指は特別な指輪を嵌めるものだろう?中指でいいじゃないか』
「ええー、だってプロポーズされたかったんだもん」
『プロポーズ!?』
 一度はかわしたと思った話題が戻ってきて、いよいよ逃げ場がなくなる。
「そうだよ、プロポーズしちゃいなよ、旦那」
「だってさ、コレミツ!」
『……わかった』
 自分は澪に甘いのだと思う。
『お前がこの先、何があっても生涯をともにしたいと思う異性に巡り会えなかった時は、その……結婚、してくれ』
「いいよ」
 澪が頷くから、コレミツも神妙な顔で頷く。
「じゃあ、あたしがお嫁に行き遅れたら、コレミツがもらってくれる、約束する?」
 澪が笑みを浮かべながら右手の小指を差し出してきた。
 正直驚きの連続だった。無邪気なようでいて、いつの間にか、目の前の少女は既にしっかりとした一人の女性であった。
『忘れなければな』
「ひどーい、コレミツのばか!」
 ぷっくりと頬を膨らます澪の小指にコレミツの小指を添えると、指きりをさせられる。
「あー、はじめてのプロポーズ、緊張したー」
 こっちはその十倍緊張した、と言いかけて、今もまだ緊張している自分に気付かされて更に無言になってしまったコレミツだった。
                                <終>

-----
お題:「昼の並木道」で登場人物が「約束する」、「指輪」という単語を使ったお話を考えて下さい。

 またしても指輪でございます。これでこのシリーズは終わりそうかなー。今回はコレミツと澪タソでした。なお、コレミツのテレパスは店員のお兄ちゃんには聞こえていない設定です。

読み終わったらどうぞぽちっとな。

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