■寝言 talk in sleep■
朝日に照らされた部屋の中、テレビはゲーム画面がつきっぱなし、テーブルの上には食べ散らかしたカップラーメンの容器、床には食べかけのポテチの袋に飲みかけのペットボトル。居間の惨状は賢木の想像を超えていた。
「……なんじゃこりゃあ」
思わず呟くと、部屋の奥のほうから何かの音が聞こえた。
「ん、ぅ……」
ソファの陰に誰かいるらしい。とはいえ、皆本ではないことは確かだった。大体賢木をここ――ザ・チルドレンの隣の部屋、チルドレン運用主任であるところの皆本と、シャドウ・オブ・チルドレンのティムとバレット、計三人の部屋に呼びつけたのは皆本だった。曰く。
『チルドレンの三人とはバベルで会ってるからいいんだけど、ここ3日ほど部屋に戻れてないんだ。バレットとティムには生活能力がないから、行って見てやってくれないか』
ということで、たまたま非番だったこともあり朝一番で家政夫がわりの呼びつけに応じた。
しかしここまでひどいとは。賢木は頭をかきながらソファの陰に回り込む。そこにはバレットの姿があった。手にコントローラーを握っているところを見ると、ゲームの途中で眠ってしまったのだろう。隣にもう一つコントローラーが転がっているのはおおかたティムと対戦してたのだろうが、ティムのほうはきちんと寝室で寝ているようだった。
「おいバレット、起きろ」
自分は影チルの運用主任じゃないんだけどな、と苦笑しながら、案外それも悪くない想像に思えた。
「……さかき、せんせぇ?」
「起きたか。水、飲むか?」
言ってから、別に二日酔いな訳ではないのだから水を勧める必要はなかったのだと思い至って苦笑しながら、バレットの身体に手を廻す。
「ほら、寝るならちゃんとベッド行け」
「んー……、ん」
と、バレットが首を左右に振る。
「どうした?」
「嫌ぁ……」
「え?」
「離さないで、せんせぇ……大好き……」
「!?!?」
そう言ってバレットが賢木の身体に抱きついてきた。寝ぼけ声の告白に、思わず身体が硬直する。
「お、おい、バレット?」
「……好きぃ……」
それだけ呟いてまた寝息を立てはじめたバレットの身体を両腕で支えながら、賢木は途方に暮れた。
果たして起こせばいいのか。それとも手を離して、このままソファで寝せていたほうがいいのか?心を透視むなどは論外だろうが。
けれど一番困ってしまったことは、ほどよく密着した今の体勢を崩したくないと考える自分の思考そのものだった。
<終>
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お題:「朝のソファ」で登場人物が「告白する」、「水」という単語を使ったお話を考えて下さい。
賢木先生とバレット。ナゴさん、どうぞ。
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