東野とちさとちゃん、カガリとカズラが前提です。
■手品 Jugglery■
とある休日、カガリは東野に誘われた。
「おじゃまします」
「いや、ホントに誰もいねーから、遠慮しないで」
誘われた先は東野の部屋で、年頃の少年らしいゲーム機やら漫画やらであふれかえっている。適当に座る場所を確保して、ゲームを物色するフリをしながらカガリは東野の様子をうかがう。
今日の午前中、突然電話がかかってきて一緒に遊ばないかと言われた。その時の口調から、待ち合わせ場所での態度といい、腑に落ちないものを感じていた。
「なあ」
「ん?」
「何で今日、俺を誘ったわけ?」
「何でって……別に」
東野はあっけらかんとしていて、どうやら本当に自分では気付いていないようだった。
「なんか様子変だぞ。ちさとの話もしないし」
「あーちさとは、うちの両親向こうの両親と一緒に旅行に行っちまって……」
そこまで言われてピンと来た。ちさとがいないから、調子がおかしくなってしまったのだろう。それはわかる気がした。
と、東野と目があうと、東野もカガリと同じ顔をしていた。
「あー……そっか、ちさとがいないからか……」
「そうだと思う」
カガリが大きく頷くと、東野はがっくりと肩を落とした。
「なんか俺、ちさとと一緒にいるのが当たり前になっちまってたんだな」
「だろうな」
気持ちは理解できる。カガリも、カズラが澪達とうち解けて女同士でつるむようになる前は、二人いつも一緒だった。
「でもそれってヤバくねえ?」
「なんで」
「もし、もしさ。高校受験とかで別々になったりしたら、俺どうなるんだろ」
「それは――どうにもならないさ」
「何、そのどうでもよさげな反応」
「いやマジで」
昔のように、お互い以外を信じられずにいた頃と違って、今は互いに別に心許せる相手がいる。だからといって二人が遠くなったわけではない。
「寂しがることないさ。心が結びついていれば、物理的な距離は関係ない」
「お前、なんだかやけに大人びたこと言うのな」
「本当だもんよ」
四六時中一緒なわけではなくなっただけで、今でもカガリにとってカズラは特別な存在に違いはない。
それは東野とちさとも一緒のはずだ。
「ははーん、カズラか?」
「うっ……」
図星をつかれて赤面する。
「うるせー!他に用がないなら帰るぞ!」
「待ってー寂しいから駄目!」
「なら最初からそう言え」
言われなくても分かっていたことではあったが、カガリは東野に軽く釘を刺す。
「なんかねーの、ゲームでもする?――あれ?」
テーブルの端に置いてある黄色い表紙の目立つ本をカガリは手に取る。
「『はじめての手品』……なに東野、手品できんの」
「あーできるぜ、少しだけ。簡単なのなら」
「じゃあそれやって見せてよ」
「しゃあねーなぁ」
そして自分の指を折って騙し見せる手品だの、袋の中身が入れ替わる手品だのを東野が披露して、カガリがそれに歓声を上げる。
「おもしれー。カズラも連れてくればよかった」
「なにそれ、俺への当てつけ?」
「かもねー」
「この野郎…!」
東野が拳を振り上げてカガリに襲いかかるフリをする。カガリはそれを大仰に避けてみせる。
二人の休日は、少しの欠落を感じながらもそこそこの楽しさで過ぎ去ってゆくのであった。
<終>
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お題:「昼の部屋」で登場人物が「寂しがる」、「手品」という単語を使ったお話を考えて下さい。
カガ葉の時のカガリとは別人、カズラと一緒のほうのカガリです。ちさとちゃんと東野君とダブルデートとかしたら楽しそうだな~。