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hyoubutter short story

hyoubutterのショートショートストーリー集
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家に帰ろう go home

カガリと東野が釣りに行った日のお話です。ほのぼの、かなあ。

■家に帰ろう go home■

 当初の予定よりもずっと遅くなってしまった。駅の掲示板を見ながらカガリは携帯を取り出す。
「なに、最終出ちまったの?」
「いや、まだだけど」
 釣り竿を背負い直している東野とはこの駅で別れることになる。東野は家まで次の列車で二駅らしいが、カガリは大使館までこの駅と、もう一度乗り換えがある。
 珍しく東野と二人で遊んでいたのでつい遊びすぎた。いつもはカズラや花井ちさとが一緒に来て遊ぶことが多いのだが、今日はカズラは澪やパティとともに料理当番、ちさとは両親が町内会の旅行で出かけてしまったので家事やら下の子の世話やらで忙しいということだった。もっとも、東野の両親も同じ旅行に出かけているのだが、東野はこれ幸いと夜遊びすることに決めたらしい。そしてその相手がカガリだったという訳だ。
「お前んち、いつもこんな遅くても何も言われないのか?」
「まあ、な」
 色々とうるさ型もいるが、パンドラは基本的に門限フリーだ。しかし終電を気にするような時間になるまで留守にしたことはないから、戻ったらカズラに何か言われるであろうことを覚悟しておかないといけない。
「へえ、いいなー。しかし……キャッチボールでやめときゃよかったかな」
「スカッシュは流石に俺も疲れた……」
「魚釣りだけのはずが、ちょっと遊びすぎちまったなあ」
 当初予定していた魚釣りでは、魚は一匹も釣れず、悔し紛れに近場のスポーツセンターに入った。そしたら生来の負けず嫌い同士が火花を散らして、夕食の時間をすっとばして閉館時間まで遊びつくしてしまった。
 おかげでくたくたなのに、これからまた電車に乗るのかと思うと気も重くなる。先ほどから携帯を玩んでいたカガリだが、思い切って電話の発信ボタンを押した。
「どこにかけてんだよ?」
「ウチ――あ、もしもし、葉兄ィ?――いいだろ、何してたって。ところで迎えに来て欲しいんだけど。――え?」
『バーカバーカ。誰が遊びほうけた放蕩息子なんぞ迎えに行くかよ。自力で大使館まで戻れ!』
「ちょっと、そう言わずに……あ」
 カガリが携帯を耳から離すと東野が不思議そうに覗き込んできた。
「迎え、来てくれねーの?」
「振られちまった」
「え?」
 きょとんとした顔の東野に、カガリは携帯のボタンを操作しながら慌てて言葉を返す。
「あ、ああ違う違う、切られちまった。ちぇ、自分の足で戻るしかねーでやんの」
「自業自得だな」
 ニンマリと笑う東野に、カガリはえいや、と軽くチョップをかます。
「まあ仕方ねーか、こんな遅くなるまでこっちにいるって話してなかったし」
 それに携帯に出られたということは、葉はまだきっと大使館にいて、船には戻ってないのだろう。(何しろ船は今電波の届かない某極寒の地に停泊中だ)カガリのことを待っていたからかもしれない。だとしたら申し訳ないことをした。
「……戻ったら謝らねーと」
「カズラにか?」
「俺にもカズラ以外に心配してくれる人がいるんだよ」
「へえ」
 少し関心したような声の東野の返答に、何故か急激に照れの感情が押し寄せてきてカガリの口を動かせる。
「いや、今の電話のはただの兄貴分ってだけで、ほんと、それ以上じゃねーから」
「別に俺は何も言ってないぞ」
「……だな」
 カガリが頷くと、東野が笑いだす。カガリもつられてくつくつと喉を鳴らす。
「お前んちも、色々あるみたいだけど、仲よさそうだな」
「俺の……家?」
「そう。家族のいる場所っていいよな。なかなか普段は言えねーけどさ」
 東野の言う通りなのだろう。かつてカガリにはカズラ以外には誰も大切な人間のいない時期があった。その頃の傷を癒してくれたのが今の家族――パンドラであるとするならば、それは傷じゃないよと諭してくれる存在が東野たちなのかもしれない。幸福に、幸福に育ったからこそ口に出すことのできる東野の素直さは、カガリにとって嫌ではなかった。
「そうだな。待っててくれてるからな」
 家族で、仲間で、戦友な人々のいるところへ。
 帰ろう、家へ。
「その前に釣り竿処分しねーと」
 カガリの背にある釣り竿に二人の視線が集まる。東野が不思議そうな顔で口を開く。
「勿体ないな、捨てることはないだろ」
「釣り竿持ってるのに魚持ってなければ、ボーズってバレるだろ」
 カズラはまだいい、問題は葉だ。釣れなかったと知ったら、戻りが遅くなったのに加えてさんざん馬鹿にしまくるに決まっている。
「あーそっか、じゃあ、次まで俺が預かろうか?」
「マジ?助かるわ――」
 人もまばらな夜の構内に、二人の少年の声は朗々と響いていた。
                                                     <終>

-----
お題:「深夜の駅」で登場人物が「振られる」、「魚」という単語を使ったお話を考えて下さい。

カガリを巡る人間関係は複雑ですね!うっかりカガ葉カガを視界におさめてしまったら、東野くんとちさとちゃんも視界に入ってきたよ!そもそもカズラがいるよ!どうしよう!?的な。
まぁ今回のキーワードは家族、ということで。よろしくお願いします。
 

いつも拍手&コメントありがとうございます。励みになります~。だから今日も、読み終わったらぽちっとな。

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お返事

  • 横山(仮名)@管理人
  • 2010-08-07 14:45
  • edit
>パティ様
 そうそう、そうなんですよ、カガリの周りは見ていて楽しいのですー。仲良し具合がとってもキュート。カガ葉もがんばりまっす。

お返事

  • 横山(仮名)@管理人
  • 2010-08-08 17:34
  • edit
>sai様
 パティちゃんが時々コマの外で二人の友情を萌え萌えしている気持ちがわかりすぎますよね!東野くんの言葉遣いとか色々苦心したので、良かったと言ってもらえて嬉しいです~。
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