■ハンバーガー Hamburger■
「じゃんけんホイ、あっち向いてホイ」
「じゃんけんホイ!あっち向いてホイ!」
「じゃんけんホイ!!あっち向いて……ああぁっ!!しまった!」
「はーい、東野負けー」
カガリがニヤリと笑ってハンバーガーの赤い包みを差し出すと、東野がちぇ、とつぶやきながらそれを受け取る。カガリは手に持ったハンバーガーショップの紙袋から黄色い包みを取り出す。カガリが持つものはエッグの乗った、東野の持つものよりワンランク上のハンバーガーだ。
「あっち向いてホイなんかで決めるんじゃなかった」
「純然たる実力じゃねーかよ」
「そーなんだけどさー」
ぶつくさと呟きながらハンバーガーを包みから出して早速頬ばる東野を見て、カガリもまた自分の分を食べはじめる。
「だからここのバーガー高いからやめようって言ったのに。これっぽっちじゃ力出ねーよ」
「朝飯食ってこないのが悪いんだろ。まあ、俺も食ってきてねーから折半ってことになったんだけど」
早朝の駅ビル内で二人は朝食代わりのハンバーガーを食べながら今日のプランについて話を進める。
「今日なにする?」
「俺あんまり遊ぶ場所とか知らないからさ、どこでもいいぜ」
「お前って、驚くほどこういう方面疎いよな」
「……日本人じゃねーからな」
現在カガリ達は日本国籍を持たないロビエト人ということになっている。
「悪ぃ。考えなしだった」
「別に。今、けっこう気に入ってるし」
戸籍があるというのは夢のまた夢の話だと思っていた。そもそも渦中にいる時は、自分とカズラが戦場から逃れられるなんて思ってもみなかった。もうずっと昔の、けれど絶対に忘れない異国での出来事。
「……ゲリラに飼われてたなんて言えねーよな」
「ん?何か言ったか?」
「べーつーに。お前は平和でいいなってこと」
「?おうよ、平和主義者よ、俺」
わからないなりに笑った東野の頬に赤いものがついていて、カガリは思わず吹き出す。
「お前、がっつきすぎ。頬についてる、ケチャップ」
「マジ?」
東野が頬を手の甲で拭うと、それを見てげ、という顔をする。その顔がまた可笑しくて笑いが止まらない。
「お前こそ笑いすぎ。つーか、お前もついてるぞ、卵」
「へ?」
東野と同じように手の甲で拭おうとすると、その隙間に東野の手が割り込んできて、唇の端のところを触ってゆく。
「?え?」
確かにそこには卵の欠片のようなものがついていたのだが、東野は指についたそれをためらうことなく自分の口に運んだ。
「!?」
「へへ」
東野はひどく得意そうに笑ってカガリに言った。
「ごちそーさん、食ってやったぜ」
「……っていうか!」
――今のは、間接キスというのではないか。思ったとたんにカガリの頬が熱くなる。
「べ、別にそんなのたいしたことじゃねーじゃん」
「ん?まあ俺もカガリもほっぺに食べ物つけてたってことで一緒だよな」
会話が微妙にかみ合わない。きっと東野は今自分がしたことを何とも思っていないのだ。胸がつまりそうになりながら慌ててハンバーガーを囓るフリをする。
「で、どこ行くよ?」
「どこでも!」
「?ナニ興奮してんだ?」
「してない!!」
同じような会話を何度もループしながら、二人は早朝で人通りの少ない休日の駅を、ゆっくりとした足取りで歩いていった。
<終>
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お題:「早朝の駅」で登場人物が「決める」、「ハンバーガー」という単語を使ったお話を考えて下さい。
以前も似たようなことを聞いた気がするのですが・・・
この二人でCPを作る時、順番はどっちが先でしょうか。東野×カガリか、カガリ×東野か。個人的にはどっちも彼女?持ちだしどちらもいい意味でボケたところがあるのでそういうことにならない気もするんですが、もしもの話ということで。
かけ算の順番へのご意見コメント頂けたりすると幸いです♪