■床の上 flooring■
目が覚めると視界と直角にフローリングが見えた。しばらくまばたきを繰り返して、自分が床の上に身体を横にして倒れているのだということに気付く。そして肩を掴まれ、名前を呼ばれていることも。
「カガリ」
仰向けに身体を転がすと、葉の顔があった。
「おはよう、カガリ」
それはいいのだが、何故葉が自分の隣に横たわり、覆い被さるような形になっているのか。
「あ、おはよう、葉兄ィ。って……なんで、俺に跨ってんの」
「ちょっとサカっちゃって」
「サカっ……じゃねーよ!」
悪びれることのない葉の笑顔に悪態をつく。
まったくどんな気持ちで昨日は邪念を振り払ったと思っているのか。
昨夜、食後すぐにカガリの部屋に遊びに来た葉と二人でゲームをしたり、雑誌を読んだりとめいめいの時間を過ごしていたら、葉がカガリのベッドで寝てしまった。
健やかな寝息を立てている葉の薄い頬や短いまつげを眺めていると、次第に悩ましい気持ちになってきたのだが、まだ時間も早いし、と必死で自分を抑えこんで床で寝たというのに。
葉に腰を掴まれながらも、うつぶせになって両肘で移動しベッドの下に潜り込むようにしてカガリは逃げた。
「朝っぱらから冗談じゃないよ」
「だってカガリ君襲ってくれないんだもん」
「なっ……!」
ではあれはわざとだったのか。そう聞かされて頭に血が上るのが分かる。
「あんたなぁ、俺がどんだけ苦労して……!」
振り返り、いきり立って叫ぼうとした時。
ガツン、と音がして視界がブラックアウトした。
いや、星まで飛んでいる。なんだこれは。
いきり立って――立ち上がろうとしてベッドの底板に頭をしたたかに打ち付けたと気付いたのは、目が覚めてからだった。
「大丈夫、カガリ?」
「痛ェ……」
一瞬気を失っていたらしい。身体はベッドの下からひきずり出され、葉ももはやカガリに跨ってはいない。
「心配したぞ。……悪かったな」
「遅いんだよ、ぶつける前に言えってーの……」
頭をさすると鈍痛が甦る。長髪のカガリにはたいした問題ではないが、ぶつけた場所はコブになってしまっているようだ。
「ジジイに診てもらうか?」
「少佐に?悪いからいいよ。そこまでじゃないから大丈夫」
「そう、大丈夫?ホントに?」
カガリが頷くと、葉は身体をカガリから見て足下のほうに退けさせて、あろうことかカガリのジーンズのボタンに手をかけた。
「よっ、葉兄ィ!?」
「反省のかわりに気持ちよくさせてやるよ」
「ちょっと!」
悪戯っぽく笑っている葉に、咄嗟に発した一言は。
「ああもう、せめてベッドでしろよ!」
それを聞いて葉が再度にやりと笑う。――しまった。
「わかった、じゃあベッドで、昨日できなかった分を」
「マジで?」
言いながらも部屋の時計を見る。時刻はまだ朝の五時。誰も起き出してこない時間だし、学校に行くまでの準備をする時間もたっぷりある。
「……ま、いっか」
「そうそう、全部任せてよ」
告げると、葉はカガリの両脇に腕を入れてカガリを起きあがらせた。
ベッドへと連れられ、されるがままに身を預けながら、カガリは気恥ずかしさに負けて、ゆっくり回る時計の針をひたすら凝視していた。
<終>
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お題:「朝の床の上」で登場人物が「逃げる」、「星」という単語を使ったお話を考えて下さい。
人体って不思議。本気で頭ぶつけると目の前に本当に星が飛ぶなんて経験するまでわからなかったです。そんな組み合わせでこんなお話とあいなりました。
いつも拍手ありがとうございます!嬉しいです。
お返事