■朝食 breakfast■
中学に通っている者は澪、カズラ、パティ、それにカガリの４人だが、女子三人は日曜の朝早くから揃って出かけてしまった。
食事当番がカガリ一人になってしまった為、今日は早起きしなければいけなかったのだが――
「ったく、はた迷惑な。朝まで人のベッド占領するか、普通！？」
カガリは葉に悪態を付きながらキッチンへと向かう。朝食の時間までもう余り余裕がない。
葉は両手を後頭部で組んだ姿勢でカガリを追いかけるように歩く。
「だから俺も朝食の準備手伝うって」
「当たり前だ！まったく、大体なんだって自分の部屋に帰らないんだよ」
「カガリったら冷た～い。昨夜はあんなにも大胆だったのにっ」
「そっ、そういう事をこういう場所で言わない！」
カガリは真っ赤になって怒りながら小声で否定するという器用なまねをしてみせるが、葉はどこ吹く風という感じだ。
「あーあ、今日の朝食はトーストとスクランブルエッグって感じかな」
「カリカリベーコン俺が作るよ」
「サンキュ」
葉の提案に素直に謝意を表する。
キッチンは整っていた。整いすぎているくらいに。つまりは誰も朝食の準備をしていないということで。
「さ、作るぞ」
カガリは共用のエプロンを葉に渡しながら自分も同じものを身につける。
棚をあらためるときちんとカットされたホテルブレッドが置いてある。葉のほうも冷蔵庫から卵とベーコンを取り出す。
オーブンをセットしてフライパンに菜箸、調味油に塩コショウなどを手早く準備して、二人して黙々と朝食を作る作業に集中した。
おかげで朝食の時間よりも少し早めに全ての準備が出来た。あとはコーヒーをセットするだけ、とカガリが気を抜いた時。
「カーガリ」
急に葉に後ろから羽交い締めにされる。
「な、なっ！？」
「今のカガリ、とっても美味しそう」
耳元で囁かれて頭に血が上る。だがカッとなってしまったら葉の思惑通りだ。つとめて平静を装う。
「べっ、別にいつも通りだよ！」
「いやあ、手際よく家事をやる姿に俺は不覚にも見ほれてしまいましたよ？」
「何を言って……！」
「いんや、マジマジ大マジ」
そう言いながら耳朶を噛んでくる。
「ちょっ、やめろよ、っ」
弱い電流のようなものが身体を駆けめぐる感覚に押し流されそうになりながら、カガリが葉の額に手を当ててその身体をひきはがした時――
バタン。
「あれ、おはよう」
紅葉がキッチンに入ってきた。あわてて葉と距離を取るカガリ。葉は涼しい顔をしている。
「ねぇ、コーヒーあるかしら」
「今入れようと思ってたところで……」
「あ、いいわよ、あたしがやるから」
カガリのそばに置いてあったコーヒー豆の缶を持って紅葉がコーヒーを煎れがてら聞いてきた。
「今日の当番って澪達じゃなかった？」
「ちょっと留守にするって言われて、俺しか残らなかったんだけど」
「それは災難ね。葉が手伝ったの？」
「まぁね」
誇らしげに胸を張る葉を無視して紅葉がカガリに告げる。
「邪魔だったでしょ。この子、つまみ食いばかりでなかなか手をつけないから……あら？」
そう言って紅葉はスクランブルエッグと一緒に添えられたカリカリベーコンを見る。
「このベーコン、葉が作ったのよね」
「わかるの？」
「うん、カリカリ具合が葉の作るやつだから。珍しい、今日は真面目に手伝いしたのねー。何かカガリに借りでもあったのかしら？」
紅葉が口に手を当ててクスクスと笑うと、葉は少し頬を赤くして憮然とする。
「別に、借りなんか……」
「え。あれ、もしかして少しは悪いことしたとか思ってたわけ？」
カガリも紅葉に乗るようにたたみかけると、葉はそっぽを向いて。
「俺、もうこれ運ぶから！」
と言って拗ねた顔で朝食をダイニングに運び始めてしまい。
残った紅葉とカガリの二人はひっそりと笑いあったのだった。
＜終＞
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題材[はた迷惑な,朝,帰る,あんなにも～～だったのに]ギャグっぽくやってみよう！
突然の紅葉乱入に書いてる自分が驚いた。
