忍者ブログ

hyoubutter short story

hyoubutterのショートショートストーリー集
MENU

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

観覧車 Ferris wheel


遊園地ネタです。

■観覧車 Ferris wheel■

 眼下には惨状が広がっている。
 夕暮れの中、この遊園地の目玉である大観覧車は海中に落ち、もともとその観覧車が設置してあった場所を起点とした遊園地内はもとより避難が完了しており、園内に余計な人影はないが、それがかえって廃墟じみて見える。他のアトラクションに大きな被害が及んでいないのが救いか。
「何てことしたんですか!」
「僕は悪くないもん」
「開き直らないで下さい!!」
 自分がまだ二十代でよかった、と真木は思う。もし今五十代くらいで動脈が硬くなりかけていたら、高血圧で倒れないという自信がない。
「まったくあなたは、なんてことを……」
 超能力で地上からは見られないように高い位置を浮遊する二人。頭を抱える真木の両脇に人の気配が発生する。テレポートでやってきた紅葉と葉だ。
「ご苦労様、流石少佐よね」
「ばっちり録画できてるっスよー。いやあ、いい画が取れました」
「お前達も!」
 その一言を絞り出すと、急激に肩から力が抜けた。脱力した真木に気付いた兵部がのほほんとした声で言葉を投げかけてくる。
「そんなに怒るなよー、真木」
「そうですよ、真木さんが言ったんじゃないですかー」
 葉の言葉のとおり、言い出したのは真木だった。しかし――
「ここまでしろとは言っていない!」
「でも少佐が真木ちゃんの期待に応えたことは事実だし」
 たしかに、紅葉の言うことも当たっている。しかし、だ!
「程度というものがあるだろうに……」
 ため息とともにヒートアップした頭の熱を逃がす真木に、紅葉が苦笑した。
「そうね、ちょっと……派手よね」
 紅葉の目線の先には、観覧車の台座部分が、支えるべきものを失ってぽつんと佇んでいた。

 時はその日の午前中に遡る。
 パンドラには予知能力者がいる。バベルのそれのように数は多くないが、精度では負けていないと兵部は言う。
 真木と兵部が視察に訪れると、ひとつの予知が待っていた。
「チルドレンが出動する事故?」
「はい」
 詳細を聞くと、場所は都内で、デートスポットとして有名な某遊園地。
「ヴィジョンは?」
「こちらに」
 能力者の一人の掌に兵部が右手を添えると、真木に対して左手の掌を向けてきた。ヴィジョンを共有するからお前も見ろということなのだろう、素直に掌を合わせる。しばらくして眉間に少しの重圧を伴って事件の詳細が読み取れる。
 遊園地での事故。観覧車の滑落と、ザ・チルドレンの活躍。薫がサイコキノでその滑落を止め、葵がテレポートで乗客を救い、紫穂がサイコメトリで残った乗客等の情報を引き出しサポートする。結果、怪我人はゼロ。ただし、薫が途中で集中力を切らして観覧車は結局地上に落下し、薫が最後の力を振り絞って横転を防いでその場に軟着陸、最終的に施設の一部が破損。
「たしかに、人がいたなら大事故だね」
「そうですね。でも、滑落前に避難を終えるわけですから、『ザ・チルドレン』も成長したと言えるかもしれませんね」
 予知能力者の言葉に兵部が心底嬉しそうに頷く。パンドラでの予知は、兵部の指示により、常に「その予言にザ・チルドレンが出動した場合」のシミュレートが行われることになっており、今回はそのシミュレートをも盛り込んだ結果を真木は見たのだ。
「しかし……」
「どうしたい、真木」
「あ、いえ」
 とその場では話を濁したものの、廊下で二人きりになったら兵部が真木に聞いてきた。
「さっき、何を言いかけたんだい?」
「ああ、ええとですね、予知の確率は常に高い精度を誇っていますし、シミュレートも綿密ですが」
「ですが?」
「その精度をどの程度信じたらいいかという論証は難しいな、と思いまして」
 予知されていた出来事、起きたかもしれない可能性と、起きなかったという事実がある場合、その予知は当たっていたと言えるのかどうなのか。言葉遊びのようではあるが、ifの世界の出来事は実現しない分証明しようがない。
「しかも、その、少佐は予知を食い止めるのが最終的な目的なわけですよね」
「確かにね」
 ならば予知は外れた方がいい、という矛盾が生まれる。頭を悩ます真木に、兵部は昼食のメニューを決めるような簡単な口調で言った。
「じゃあ、試しにさっきの予知、覆してみようか」

 そして夕刻。
 一連の救出作業が終わり、台座から外れた観覧車を明石薫がとどめている途中で、すぐ脇の海浜公園のカップルに視線が釘付けになる。
 はるか上空から一連の様子を見ていた真木が、超能力による制動を失い空中で姿勢を崩しかけた観覧車を見ながら何をやっているのかと呆れかけたところに、兵部が観覧車を見ながら言った。
「じゃあ、あれ、予言より一足先に落とすから」
「えっ!?」
 言葉の意味を一瞬理解できずに問い返すが、兵部は掌を観覧車のほうに向けたまま振り向きもしない。と、物理法則よりもちょっぴり早く、観覧車の車輪部分は地面に激突した。
「はいー!?」
 兵部がサイコキノで落としたのだ。得意げな横顔が見える。が、それも一瞬だった。
「ん?」
 間の抜けた兵部の声とともに、観覧車がバランスを崩す。車輪の回転方向に、だ。奇しくも薫が野次馬根性で目線を奪われていたカップルのたくさんいる、水際のベンチのほうへ。
「んんん?」
 予知では落下で終わっていたものが、兵部が力を加えたことで変な方向に動きだしたのかもしれない。いずれにせよ、車輪はド派手に軋み音を立てながら転がり、最終的に河川敷から川へと落下して、上半分を水面に出して沈没してしまってから、ようやくその動きを止めたのである。

「少佐もクイーンも!二人の|力≪サイコキネシス≫ならあの程度の重量力押しで止められたでしょうに」
「いやあ、照れるなあ」
「褒めてないわよ、少佐」
 二人を宥めるように会話に加わった紅葉は、葉と一緒にもっと現場の近くで記録係としてデジタルビデオカメラを構えて事が終わるのを待っていたのだった。
「予知ヴィジョンよりちょっと早い時刻に着地するつもりが、力の入れ具合が悪かったのかな、それともクイーンが予知と違って途中から力を出さなかったか。ま、予知は外れたんだしいいじゃないか」
「傑作だったぜー。特に逃げまどうカップルの表情なんかサイコーでした」
「相変わらず悪趣味ね、葉」
 紅葉のつっこみにも耳を貸さず、葉が誇らしげにビデオカメラを掲げてみせると、兵部がうなずいて葉と真木の二人を見る。
「ま、そんなわけで、ビデオは予知部に今回の資料として回すからな、葉。それでいいだろ、真木?」
「ラジャー」
「わかりました……」
 肩を落とした真木の近くに葉が寄ってきてビデオカメラを手渡される。
「ま、予知の精度云々について真木さんが少佐に言い出したことが原因なんだから、諦めなよ」
「そういうことね」
 葉と紅葉が兵部の側に付いたことを察した真木は、夕暮れの中ため息をつきながら、観覧車のかつて最も輝いていた頃よりもさらに高いところを飛びながら家路を急ぐことにした。
 いつかあの遊園地の大観覧車に恋人と二人で乗るというささやかな夢が砕けた予感に、ひそかに心を痛めながら。

                                   <終>

----
 テレビ版の何話か忘れたけど、原作にはない「観覧車を落とす」というエピソードがありましたので、原作とテレビの差分を埋めてみました。落ちた先が川か海かが定かではなかったのですが、でも「水辺でデートするカップル(アニメではハヤテとナギ)」は外せないよな、と。
 お題が「遊園地 開き直る」でしたので、こういう感じに。最後の真木さんの空想の恋人が誰なのかは皆様にお任せで。本当は高レベルエスパーなので遊園地なんか行けない真木さんは、だからこそひそかに憧れている、なんてこと、ありそうじゃないですか?
 

 よかったら拍手をどうぞ!コメントも大大大歓迎です!

拍手

PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

× CLOSE

カレンダー

04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

カウンター

プロフィール

HN:
横山(仮名)
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
hyoubutter管理人

バーコード

最新CM

[03/29 横山(仮名)@管理人]
[03/29 横山(仮名)@管理人]
[03/29 横山(仮名)@管理人]
[03/14 横山(仮名)@管理人]
[03/14 横山(仮名)@管理人]

ブログ内検索

フリーエリア

フリーエリア

× CLOSE

Copyright © hyoubutter short story : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]