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hyoubutterのショートショートストーリー集
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花束と動物園 flowers and zoo

真木紅葉。

■花束と動物園 flowers and zoo■

 ロビエト大使付きの秘書官と補佐官の任務から解放されて、真木と紅葉の二人は会議に使われたホテルから、大使館ではなく街の郊外へ歩み出る。
 私用で使っている車を少し遠くに停めてあると真木が言うので、素直に従ってきた紅葉だったが、駐車されている場所を見て声を上げた。
「……どうして動物園の駐車場なわけ」
「近くに長時間駐車できそうな場所がなかったんだから仕方ないだろう」
「ホテルの駐車場は?」
「満車だった」
 動物園の呑気な看板を見ていると、なんだか今までの水面下の交渉や腹のさぐり合いが馬鹿らしくなってくる。
「朝7時からの会議で満車だったわけ?」
「あー。それは、だな……」
 真木は後部座席の扉を開く。
 そこには季節の花がまとめられた大きな花束があった。
「贈り物だ。少佐からの」
 紅葉は嬉しそうに花束を抱き上げたが、ふと怪訝な顔をする。
「また花?」
 兵部は「女性への感謝の贈り物は花」と普段から公言している。花以外のものを贈るのはクリスマスや誕生日だと決めているらしい。
「少佐は紅葉の成功を信じて疑ってなかったということだよ」
 実際交渉はうまくいった。終始こちらのペースだったと言ってもいい。ほんの2時間で、大分有利に事を進められた。そしてそこには紅葉の活躍が非常に大きかった。真木やマッスルよりも。
「朝の9時前にやっている花屋があそこの角の花屋しかなかったんだ」
「なるほどねー、会談の間に少佐が花束を買ってここに用意しておくっていう段取りだったわけね。道理でホテルの駐車場じゃなかったはずだわ」
 紅葉が花束を元あった場所に戻して後部座席のドアを閉めた。
「ねぇ真木ちゃん、動物園は好き?」
「なんだ、突然に」
 紅葉は動物園の看板を指さす。
「たまには行ってみない?動物園」
 真木はぱちくりと目を見開く。
「構わないが」
「じゃ、決定」
  嬉しそうにその場でくるりと回ると、紅葉は真木の手を引いて歩き出す。
「しかし、平日のこんな時間にスーツ姿の男女が動物園とは、少し異様じゃないか」
「全然、異様じゃないわよぅ」
 その続きの言葉を紅葉は飲みこんだ――デートだとしたら、変じゃないわ。
 動物園への道を真木の手を引いて歩きながら、兵部がいないことに少しだけ感謝している紅葉だった。

                                       <終>
-----
お題:「朝の動物園」で登場人物が「好きにされる」、「花束」という単語を使ったお話を考えて下さい。

はからずも前回前々回に続き動物ネタ3連発になってしまいました。どうしてこうなった?

読み終えたらぽちっとな。

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