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hyoubutter short story

hyoubutterのショートショートストーリー集
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白猫 white cat

小さな生命とこかんぶ達。


■白猫 white cat■

「ごちそうさま」
「あたしもごちそうさま。今日の片づけはあたしがやるわね」
「俺も手伝う」
 食事の後、まだいくらか皿に残ったままの状態で紅葉と葉が手早く片づける。
「どうしたの真木ちゃん、変な顔して」
「いや、最近どうしたんだ、お前達」
 普段なら片づけなどという面倒くさいものは当番制でやっているのに、最近は二人とも進んで片づけたがる。それだけならいいのだが。
「残してるじゃないか」
「あっ、じゃああたし夜食にして後で食べるわ。ならいいでしょ?」
「いや、そういう問題でもないのだが……」
 葉は紅葉の言葉に頷いてばかりだったが、真木から奪うように片づけを済ませると、無言でキッチンへと運んでいってしまった。
「?」
 一人取り残されてテーブルの上を拭きながら、真木はキッチンの二人の様子を伺おうとしたが、あいにくと見えなかった。
「うまくいったね」
 葉が紅葉にささやきかける。が、紅葉は渋い顔をした。
「そろそろあやしんでるわよ。もう少し気を付けないと」
 言いながら紅葉は二人の残した食事をひとつの小さな皿に盛りつけた。
 それはたしかに夜食のようにも見えたのだが――。

 深夜。
 真木の寝室の明かりが消えたのを見計らって、二つの影が真っ暗闇の中を移動する。
 手探りで住処にしている屋敷の裏に回り、屋敷の外からボイラー室の内側に入り込んだ。
 葉が周囲に人影がないのを見計らって懐中電灯のスイッチを入れると、ごく小さな影が足音を立てずに二人のほうへと歩み寄ってくる。
「ニャア」
 それは小さな子猫で、紅葉と葉が数日前に拾ったちいさな生命だった。
「ふう、今日もここにいたのね。お前、どこか行きたいところがあったら行ってもいいのよ」
 紅葉が入口の方を指さして告げる。昼間もそこの戸は開けてあった。
「ニャア」
「ここがいいってさ」
 葉が悪戯っぽく笑いながら、夕食の残り――猫のために残しておいたそれを猫の前に置く。
 猫はゴロゴロと喉を鳴らしながら一心不乱に食事を食べ続けている。
「やっぱり、野良なのかなぁ……」
 白い猫は左右の目の色が違う。左がイエローで右がブルーだ。光の加減ではなく、そういう遺伝のようだ。
「飼うわけにはいかないわよね」
「またどこに引っ越しするかわからないっていうんだろ?」
「ええ」
 どこに引っ越すか分からない、というのは、彼らの場合転校するなどというレベルではなく、国家規模で分からないということだ。北の大国だったり、南の島だったりと、今はバベルの監獄にいる兵部の思惑にあわせて彼らは世界中で居場所を変える。
「連れ歩くにしたって、少佐や真木ちゃんがうんって言うかどうか……」
「無理だろうね」
「そうよね――!?」
「えっ!?」
 第三の声が後ろから聞こえてきて紅葉と葉が振り返る。葉がかざした懐中電灯の光に照らされて、銀の髪がさらさらと光を反射する。漆黒の学生服を纏ったその姿は。
「少佐!」
「やれやれ、子猫を隠していたとは、君達も懲りないね」
 兵部があきれた顔をして腕組みをすると、紅葉と葉がしゅん、と肩の力を落とす。
 そこに兵部の後ろから真木が現れた。
「最近二人の様子が変だったので、今日たまたま戻ってきた少佐に見張ってもらっていたんだ」
「まぁ半分は娯楽みたいなもんだったけど」
 兵部が猫に近寄ると、夢中で食事をしていたはずの子猫は警戒心を露わにして後退る。
「やれやれ、嫌われたみたいだ」
 葉や紅葉は子猫や子犬をよく拾ってくる。その都度もといた場所に戻すのは真木や兵部の仕事だった。今回もそうなることを、子猫が知っているかのようだった。
「僕は嫌われたみたいだから、真木、捕まえてくれるかい。もといた場所に戻すよ、いいね、葉、紅葉」
 二人は肩を縮めたが、どこかにほっとしたような空気があるのも事実だった。
「わかりました、捕まえ――わっ!?」
 真木が子猫を捕まえようと屈み込んだ時、子猫のほうが真木の懐に飛び込んだ。
「なっ、なんだ!?」
 突然の突進に一同が目を丸くするが、真木が子猫を抱き上げるとゴロゴロと喉を鳴らして真木の胸にすり寄る。
「真木ちゃん……」
「好かれた、みたいだな」
 紅葉と葉が驚きを隠せずに真木と子猫を交互に見つめる。
「どうしましょう……」
「どうもこうも、好きにするといいよ、真木」
 混乱を隠せない真木を、兵部はおもしろがっているようだった。真木が子猫に情を移してしまったのにいち早く気付いたのだ。
「窮鳥、懐に入れば猟師も殺さずってね。いいんじゃない?ここしばらくはこの家から離れる予定もないし、飼っちゃえば?」
 さらりと前言を翻した兵部の言葉に、紅葉と葉が嬉しそうに顔を上げる。
「そんなっ。今すぐではないにしろ、いずれこの屋敷は引き払ってしまうんですよ?」
「一匹ぐらい通い猫がいたっていーじゃん」
「そうよね、普段は野良で、食事だけあげるくらいならアリよね」
 葉と紅葉が嬉しそうに兵部に続くので、真木はますます異議を唱えづらくなっていく。
「そうとなったら、名前を考えなくちゃ」
「いいね。何て名前をつけよう?」
「おいこら、俺はまだいいとは言っていない……」
 制止しようとした真木の胸の中で子猫が体を動かす。真木の髪の毛にじゃれついて遊びはじめたのだ。
「少佐……」
「餌付けだけならいいんじゃないの?ちゃんと避妊手術しとけばさ」
「少佐ぁ~……」
 困り果てた顔で真木が兵部を見るが、一同は猫の名前にあーでもないこーでもないと議論するのに夢中で、真木は暖かくて柔らかくてよく動く小さな生命を掌の上で持てあましていた。
                                    <終>
-----
題材[真っ暗闇の,ねこ,隠す,もう少し]

葉紅葉にしようとしたのですがこかんぶになってしまいました。

いつもありがとうございます~

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